第71話 なんとなく欲しいもの
「車の免許が欲しい」
「急にどうしたんすか」
「ほら、今度18歳になるし。なんか欲しいなあって」
「車好きなんす?」
「いや全然?」
「ええ……。じゃあなんでさ」
「18歳になったぞ! って実感できるかなって」
「ああ、男がアダルトコーナーに入れるようになって喜――無言で肩を叩かないでください」
「うっさい。けど、キミもそういうの興味あるの? その、えっちなのとか」
「いや、全然?」
「だよねー。いやでも男として、ていうか人間としてそれってちょっと異常じゃない?」
「いや仮に興味あっても普通『大好きです!』っていう馬鹿います? いや男友達との猥談の流れならともかく」
「キミなら素直に答えるかな?って」
「センパイ、性欲ないんすか? もしあるならどう解消してます?」
「……ごめん、私が悪かった」
「んで、車の免許ですけど取る意味あるんす?」
「身分証。今は学生証があるけど、今後の事を考えるとね」
「お小遣い一か月分ぐらいで免許取れるセンパイに言うのもあれですけど、すんげえ高い金出して取る身分証って、お金も時間も無駄じゃないっすか」
「キミは車の免許否定派?」
「さっき言った様に、時間と金の無駄です。個人情報の流出は怖いですけど、身分証目的ならマイナンバーカード作りますね」
「おお、そうか。それでいいのか」
「まあ社会に出て時間もない時に、本当に免許が欲しくなったら困りそうなんで悩みどころですが」
「けどまあ、首都圏で車を使うことってあんまないでしょ。旅行とかする時、レンタカーあればなあって場合もあるけど、普段運転しないのに旅行で車とか怖すぎじゃない?」
「そういうのも含めて、人生設計として持つべきかどうかですよね。更新だってあるし。一生乗らないならまさに無駄ですし。けど必要になった時に困るのもあれだし」
「うーん、じゃあやっぱいらないや」
「心変わり早い!」
「最初に言ったように、身分証目的となんとなく18歳になったからって理由だし。けど、キミのいう通りその時間とお金があったら、きっともっと楽しい『最後の高校生活』が送れるかなって」
「まあ大学の時でも取れますしね。今取る理由もあんまないっすもんね」
「そ。だから免許取るための時間をさ。キミがちゃんと私を楽しませるように」
「センパイ、やっぱ免許取りましょう。きっといつか良いことありますよ」
「ちょっと、なんで露骨に嫌がるの」
「……、秘密」
「えっ、すっごい気になるんだけど」
「まあ、口にすると恥かしいんで。たまには隠し事してもいいっすよね」
「ダメ。答えて」
「――、センパイと一緒に過ごす時間、正直好きっす。だから、免許取る時間を割いてまで、一緒に居たいって言ってくれるの素直に嬉しかった」
「嬉しいのに、拒むんだ」
「よくわからないんすけど、ふと、俺ってセンパイに依存してね?って」
「いいんじゃない? てかそれは依存とは言わないと思うよ。楽しい時間を過ごしたいってだけでしょ。キミの親友、バスケ部エース君と一緒に遊んでて依存してるって思う?」
「……まあ、思わないっすけど。でもなんか」
「うっさい、気にしない。良いから私が在校してる間ぐらい毎日一緒にいること」
「……うっす」
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