第70話 終・懐事情はそれぞれ
「そいや俺、バイトすることになりました」
「おおう? 急にどうしたの? いや、驚く事でもないかもしれないけど」
「親友に誘われて、まあ。先の話ですけど海の家で短期バイトすることになりました」
「ああ、バスケ部エース君のお誘いか。あれ? 夏の海嫌いって言ってなかった?」
「いや塩水に入るのが嫌いなだけです。観光するなら静かなほうが良いってだけで、海そのものは好きっすよ」
「しかし、キミとバスケ部エース君が、か。大丈夫なの? ちょっと心配だよ」
「あいつは知らんけど、俺は返り討ちにするんで大丈夫です」
「ごめん話がすっごい端的すぎて理解ができなかった」
「親友はきっと天然たらしオーラで女性から声を掛けられまれでしょうね。根本的にお人好しだから、やんわり断ろうとして結局ガンガン押されて内心イライラするって感じです。更に女性不信が強まっても俺は知らん。てかバイトにあいつを誘った奴はあのモテオーラで集客する気満々だろ」
「ほう、それでキミの『返り討ち』とは」
「開放的な空間になると必ず現れるゴミ、その掃除です」
「裏家業の人みたいな表現だね!? まあ、つまりなんかお痛する連中をどうにかすると」
「大体そんな感じっすね、きっと」
「……いやあ、どうだろ。キミも大概だしなあ。バスケ部エース君と同じ理由な気がするよ?」
「仮にそうであっても、俺は断るの上手いんで大丈夫です」
「え? どの口が? ラブレター2回貰って2回ともテンパってたのに?」
「やめろっ! えぐらないで!? いや、ああいう本気なのは慣れてなかっただけで、そういう逆ナン?ってのは大丈夫っすよ。親友を紹介するだけなんで」
「えっぐいなあ。バスケ部エース君の女性不信疑惑ってもしかしてキミが一枚噛んでない?」
「でもそれで俺じゃなくてあいつに声をかけてるんで、そういう事でしょ」
「まあ、うん。やっぱキミにはまだ女心を理解する能力が致命的に足りてないね」
「えー、なんでっすか。俺より良い奴を紹介したんだからむしろ相手に喜んでもらってるでしょ」
「あのね、そういうの『自分は貴女に一切興味ないから、他の男を紹介します』ってなるの。わかる? 普通に断られるより結構きついかもよ」
「……マジっすか」
「まあ、そう思われやすいよ、とだけ」
「難しい」
「はい逆パターンを想定しましょう。キミが私にナンパしました。そしたら『私よりあの子のほうが可愛いよ?』って言われてごらん?」
「いやセンパイより可愛い女性が居るとは思えないんですけど」
「ンッッッ! そうじゃなくて! 実際にもうあの子アイドルじゃない!? ってぐらい可愛いを子を紹介されたとして!!」
「いや声掛けた相手はセンパイだし、なんで他の女に声をかけなきゃいけないんす? そこで『あーほんとだもっと可愛い子いるわー』って、失礼すぎでしょ」
「あー、うん。まあ、そうね、そうねえ……。なんとなく、バスケ部エース君を紹介して回避したがる理由が、ちょっとわかった」
「声を掛けておいて、俺より良い男見つけたらすぐ相手を変えるとか、そんなのに付いていくわけねえのに」
「そういうダメな女性をバスケ部エース君に送りつけてるんだよ? やっぱそういうの止めてキミは一度彼に謝ったほうがいいんじゃない?」
「あいつが彼女作るまで絶対に止めないし、謝りもしませんけど。モテるくせにやれ『オンナコワイ』とか言って逃げてて。自業自得だ。さっさと彼女作れよ」
「鏡貸そうか?」
「え、なんで急に」
「いやなんとなく。同じ言葉を自分に向けて言って欲しいなあって」
「いや俺モテませんけど」
「最後の一言だけでいいんで」
「『さっさと彼女作れよ』 ……これ何の意味が?」
「いや、ほんとなんとなく。なんとなくムカついたから」
「えっと、奢りましょうか?」
「奢りじゃなくていいから、この後喫茶店でケーキ食べに行こ? あ、腕組みはさせてね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます