第68話 懐事情はそれぞれ

「キミはバイトしてないよね?」


「なんで決め付け? まあ、してないっすけど」


「だよね。じゃなきゃ、毎日こんな風に二人でぼけーっとしてないよね」


「いや俺だって放課後ずっとセンパイと居るわけじゃないし。その後実はって事だってあるわけでして」


「私とファミレスやファストフードで晩御飯食べて、そのあと親御さんのご飯作らないといけないのに?」


「……ええ、はい。バイトはしてませんし、するつもりもあまりないですが。それで、何が言いたいんす?」


「食費とかは貰ってるって聞いてたけど、普段の遊びに使うお金ってどうしてるのかなって。特に深い意味はないけど、ちょっと疑問なだけ」


「基本的に、欅家の財布は俺が握ってるんで。そこからやりくりして、必要な時にはお袋に事情を話して使用許可を貰います」


「おう、色々ツッコミしかないよ。確かに、まあお父様もお母様も日々お忙しいし、家計的なものはキミが預かってても、まあ……いやおかしいでしょ!?」


「両親、何故か公共料金とかを引き落とす欅家共通みたいな口座と、自分たちの給料の口座を別々にしてるんすよね。んで、口座にお互いお金を入れ忘れて滞納ってのがあって」


「うーん、全然わかんない! 欅家の口座とは!?」


「まあきっと籍入れる時に色々思うことがあったんでしょ。お互いの稼ぎとか、その使い道とか、主導権とか。結果としてあいつらはなんもしねえし普通に忘れる! ポスト開けて東京電力からの督促状見た時の絶望感わかる!? えっ、うちの親こんなに働いてるのに電気代払えないの!? って気持ち!!」


「……そんな経験ないから、想像でしかないけど、辛かったね」


「その日に両親の残業止めさせて、家族会議です。そんでお互いに『こいつが口座に入れてると思った』とアホな事を言ったので、とりあえずゲンコツしときました」


「ん? 意外とアグレッシブ? ん?」


「お互いに聞かれたくないだろう部分もあるんで、二人が隠してる口座とかは全部俺が把握してます。そこから欅家の財布は俺が管理してます。そもそも稼ぐ癖に引き出さないし使わないし、なんでこいつら仕事してんだろ」


「おーい、なんか慰めようとキミを抱きしめた私ってちょっと損してない?」


「いや勝手に抱きついてるだけでしょ。最近ちょっと暑くなってるんであんま引っ付かないでください」


「傷付いた。流石にそれは傷つく。慰謝料を求める!」


「えっ、まあ俺の親の金ですけど?」


「ぐへへ、体で払ってもらおうか――んっ!?」


「これでいいですか?」


「別に、なんも言ってないのに。『頬ちゅっ』は卑怯」


「じゃあ、そのお詫びしましょうか?」


「キスは唇にして欲しいなあ――って、ンッッッッ! 『耳甘噛み』はだめっ!!」

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