第66話 お礼がしたい
風邪をひいた。
正確にはひいていた。
医者に連れて行かれ、処方箋を飲んだら次の日には体のだるさはなくなっていた。
現代医学すげえ。
……センパイのおかげだ。
俺一人なら、医者に行こうともしなかっただろう。
だって、だるいし。無理して外出るぐらいなら寝てれば治るだろという気持ちが強い。
そんな俺をわりと強引に、センパイは学校まで休んで病院に連れて行ってくれた。
飯も作ってくれた。人の手料理って、実は苦手だけど、めっちゃ美味かった。
寝る時も……うろ覚えだけど、めっちゃ恥かしい感じに甘えた気がする。
朦朧としてたけど、センパイが頭を優しく撫でてくれたのははっきりと覚えている。
親は仕事で忙しくて、俺は一人っ子で。
ちょっとぐらい体を壊した程度で甘えるということがなかった。
だからだろう。
たかが風邪で、こんなにも心配され、大切にされるという事がこんなにも嬉しいと思うのは。
風邪ぐらいで死にはしないけれど、間違いなく俺はセンパイに救ってもらった。
「こういう時のお礼って、どうすりゃいいんかね」
「……すまん。病み上がりで申し訳ないけど、叩いていいかい?」
「だからなんでお前は爽やかな笑顔を浮かべて人に暴力を振るおうとできるの? やめろって。本気でカウンターするぞ」
「うん、ごめん。俺が颯に腕っ節で勝てるわけないしね」
「んで話を戻すと、風邪の看病してくれたセンパイにお礼がしたいんだけど、どうしたらいい?」
「なんで俺に聞くんだよ。そんな経験ないっての」
「確かに純は健康そのものっていうか、今まで病欠した事なかったな。じゃあ仮に、同じような状況になったとして」
「相手がいないから一人寂しく市販の風邪薬に泣き縋ります。以上」
「いやお前なら看病に来てくれる女子ぐらい――」
「彼女いないのに、家に見知らぬ誰かが上がりこんで看病されたら風邪どころの話じゃないからね? てか橘先輩は親公認なの!? そこがまず驚きだよ!!」
「俺も驚いたわ。なんかお袋が合鍵作ってセンパイに渡したっぽいよ。さっきセンパイからのラインに、キーケースにうちの鍵付けた画像貰った。うちの鍵が必要なのって今回ぐらいだろってのに」
「お前……、橘先輩だけじゃなくて親にまで……。いやもう何も言わない。言った所で手遅れだし。あとはお前次第だよ」
「やっぱ過保護だよな。風邪ぐらいで大げさだっての」
「いやそうじゃない……。そうじゃないけど!」
「でまあ、とはいえ体壊してる時に色々してもらったセンパイにお礼したいんだけど、どうすりゃいいかな」
「はあ? ありがとうのキスでもしたら!?」
「それはもうしたけど。それ以外に、こうもっと気を利かせたお礼を――って痛っ!? 脛蹴るな!!」
「橘先輩の好きなものでも奢ったら? お気に入りの喫茶店があるって、前に話ししてたよな」
「それは明日に約束してる。それ以外――足を踏むな!!」
「デートに誘えばいいんじゃねーの?」
「なるほど。確かに前に誘ったけどお流れになったみなとみらいデートがあるから、もう一回誘ったら喜んで――。痛いわっ!! おいてめえ表出ろ。仏の顔も三度までだ。つか普通に頬を引っぱたくな!」
「上等だこらっ! かかってこいや!!」
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