第64話 一日で治ると思うなよ

「げほっ、ああー、もうなんで――ごほっ!!」


 熱はまあ、37度程度には落ち着いたけど、喉と鼻に一気に来た。

 今日も今日とて自宅で療養するしかない。

 

「はいスポーツドリンク。水分補給大事。あと一応マスクして。病院行こうっか」


 朝の9時。

 とっくに学校が始まっている時間に何故かセンパイは俺の家に居た。


「立てる? って辛いか。肩貸すかよ」


「なんでセンパイが――げほっがほっ!」


「咳する以外黙ってて。病院行って処方箋貰えば大体よくなるから。実は重病でも早期発見で傷は浅いから」


 なんで、センパイがこんな時間にいる?

 なんで、センパイはこんなにも優しくしてくれる?




「所謂、風邪ですね。季節の変わり目、ではないですけど最近急に雨が降ったりして体がついていけなくなったんですね。抗生物質と解熱、喉の腫れと胃腸を守るお薬出しておきますので、あとは数日はゆっくりしていれば大丈夫ですよ」


 そりゃまあ風邪だし。

 けど付き添ってくれたセンパイは凄く安堵した表情をしてくれた。


「お大事にどうぞ。あと彼女さんも、移されないようにね。ちょっとでも体調が悪くなったらすぐ安静にするように」


 彼女じゃない、なんて言うほど余裕もなくて。

 センパイは律儀にはい、と答えて俺を連れて診察室を出た。


 俺はそのまま待合室に座っていた。

 病院のお会計とか、処方箋を受け取るための書類とか全部変わりにやってくれた。




「うどんがいい? それともお粥?」


「ごほっ。えっと、ごほっ、げほっ。お粥、がはっ!!」


「お肉とかお魚はもう食べられそう? それぐらいの食欲はある?」


「ありまげほっ、あります。ごほっ」


「幾ら胃に優しいからって、栄養が少ない料理を二日続けたらダメだしね。軽く挽肉を入れるね」


 そして作ってくれたのはぱっと見普通だけど、梅干と卵と挽肉の入ったとても美味しそうなお粥だった。


「はい、ゆっくり食べてね」


「……美味しいっす」


「これも飲んで。ジンジャーティーに蜂蜜で甘くしてみたの」


「喉がすっきりして、体がぽかぽかします」


「体はだるくない?」


「ちょっと、だるいっす。喉もまだ痛いし、げほっ、咳とまらごほっ」


「眠気は?」


「あんまないっす」


「じゃあ一緒に映画見ようか。布団に包まって体温めて。眠くなったらいつでも寝て良いから」


「俺の部屋、テレビないっす」


「私のスマホでいいよ。何が見たい?」


「……キャプテン・アメリカ。ファーストのほう」


「そのチョイス、意外と元気?」


「多分、最初のほうで眠っちゃうと思いますけど。キャップが、超人になる前から高潔な心を持ってるって……」


「もう……、言い切る前に眠ちゃって。フィクションのヒーローはさ、凄くカッコいいし、弱いところあんま見せないけど。キミは普通の男の子だし、弱い部分も見せていいし、素直に辛い時は倒れてよ。……私だけのヒーローでいいんだよ」

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