第63話 病は気を
「……だる」
今朝起きたら、なんかとてもふらついた。
ただの寝起きでぼけっとしたような感覚じゃなくて、世界がこう揺れる感じ。
まさかと思い体温を測ると38度を越えていた。
当然、学校に行く元気もなく病欠にした。
朝忙しいお袋に頼んで学校に連絡をしてもらい、俺は再びベッドに戻った。
体が軋む様に痛い。
辛いんだけど眠気が来ない。
それよりも熱を持った体が休ませてくれない。
かといって何かする気も起きず、ただぼっと昼過ぎまでベッドに横になっていた。
先ほど念のため熱を測りなおしたら37度後半だった。
ちょっとはマシになったか。
それでも眠気よりもだるさが強いし、何もするつもりがなかった。
時間経過が、驚くほど遅い。
暇、だけど何もしたくない。
先ほどぶるっとスマホが振動したが、それを手に取る余裕もない。
「入るよ?」
……は?
「あっ。起きてたんだ。調子はどう? って聞くまでもないぐらい辛そうな顔してるね」
「なんで、センパイが」
「お見舞い。お母様からキミが風邪引いたって聞いたから学校早退してきたの。鍵はポストに入れてくれてて、ポストの開け方も教えてくれたんだ」
なるほど。お袋め、余計な真似を。
「声はいつも通りだね。咳はなさそう」
「ええ、熱で体がだるいだけっす」
「そっか。汗かいて気持ち悪いとかない?」
「ずっと布団にこもってましたけど、すげえ寒いだけなんで大丈夫っす」
「そっか。体、起こせる? うどん作ったから、少しは胃に何か入れようね」
「……ちょっと、だるくて体動かす気あんまないんすけど」
「手貸すからさ。栄養取らないと、治るものも治らないよ」
「すみません。ありがとうございます」
センパイにゆっくりと上体を起こしてもらう。
細腕のセンパイが俺の体を起こすのは大変だろうに。
「うどんでも胃に入れるのきつかったら言ってね。ライトミールとか栄養ドリンクも買って来てあるから」
「……普通、お粥じゃないっすか?」
「意外とお粥って胃に重いんだよ。結局お米だしね。あ、うどんだからって啜らなくていいから。ちょっとずつ噛む感じで」
センパイは箸でうどんを一本掴んで、ふうふうと冷ました後ゆっくりと俺の口に運んだ。
俺はゆっくりと一口一口噛む。
確かに、お粥をレンゲで口に運ばれるより、自分のペースで食べられるから楽だ。
梅干と柚子胡椒で酸味の効いた、とても暖かい味だった。
「汁も一口どうぞ」
同じくセンパイはレンゲに救った汁を息で冷ましてくれたあと、ゆっくりと口に運んでくれる。
鰹出汁と梅干と卵の優しい味だった。
「どう? 食べられそう」
「美味しいです。口にしたら、驚くぐらいお腹が空いて来ました」
「そっか、よかった。それじゃあ――」
「一人で食べられるんで、箸とレンゲをください」
「ダメ。はい、あーん」
「熱っ! ちょっと、無理矢理口に運ばないで!?」
「キミ、病人。いいから私に頼られてなさい」
「……うっす」
うどんを一通り食べ終わると、急に汗が噴出してきた。
寒気は引かないけど、額や背中に汗が流れてちょっとだけ気持ち悪い。
「やっぱね。栄養も取らないでそのまま寝てたでしょ。薬は……市販のを飲むのは一時的に楽にはなるけど、ちゃんと直したいなら飲まないほうがいいけどさ」
「熱ぐらい、寝てれば治ると思って」
「体拭いてあげるから、シャツ脱ぐ」
「あ、いえそれは流石にちょっと」
「無理矢理ひん剥かれたい?」
「さーせん。やめてください、自分で脱ぎますから」
センパイに汗を拭いてもらった後、昨日から着続けていたシャツの変わりに新しいシャツに着替えさせてもらった。
かなり不快感がなくなった。
そして、そのまま眠気が襲ってきた。
「キミが寝るまで傍にいてあげるから」
「……それまで頭撫でてくれると嬉しいです」
「うん、いいよ」
病は気からというけれど、病を患うと気がどうしても弱くなってしまう。
だから、ついセンパイに甘えたくなってしまった。
優しく撫でられ、意識が朦朧としてきて、気づくとそのまま深い眠りについてしまった。
「おやすみ。……、んっ。『頬ちゅっ』ぐらい、許してもらえるよね」
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