第62話 いい天気

「……雨、降ってきたか」


 純に「今日ちょうど放課後あたりから雨らしいよ」と言われていて、スマホでも天気予報も見たらこの時間の降水確率90%だった。

 ギリ駅までは降らないでくれ、と思っていたけれど物の見事に雨。

 土砂降りとまでは言わないけど、結構強い。

 学校から駅まで大体10分程度。

 走れば……いや結構辛いか。

 途中にコンビニでもあればいいが、駅前ぐらいにしかない。

 いや駅に着いたら傘あんまいらないし。

 

「よっ、少年。私の傘持ちになってくれない?」


 どうしようかと頭を悩ませていたら、聞きなじみのあるハスキーな声の女性に声をかけられた。


「……センパイっすか」


「ちょっと、なんで微妙に嫌な顔するの? 駅まで傘貸すから一緒に行こうって誘ってるだけじゃん」


「思いっきり、その、あれっすよね。相合傘ですよね」


「うん、まあ、そうなるね」


「うーん……」


「ずぶ濡れになるのとどっちがいいの? 恥かしいの我慢したほうがマシじゃない?」


「いえ恥かしいわけじゃなくて、学校付近で堂々とセンパイと相合傘なんて流石にちょっと」


「気にしすぎ。さ、一緒に行こう」


「うん、当たり前のように腕組むな!」




「……ほんと、センパイって堂々としてますよね」


「別に? てか仕方ないじゃん。ビニール傘ちょっと小さいからお互い濡れちゃうし、道も狭いから腕組んでないと通りすがりの人の邪魔になるし」


「確かに」


「あ、納得するんだ」


「周りに迷惑はかけたくないっすもんね。ならもっと引っ付いてくださいよ。今のままじゃ中途半端っす」


「そう? じゃあお言葉に甘えて」


「いや腕組みしっかりしろとは言ったけどなんで頭と胸まで当ててくるのさ」


「えっと、ご褒美?」


「なんのさ。センパイの乳……ていうか下着? 固くてちょっと痛いっす」


「ああ、うん。ごめん。次は柔らかめの下着を選ぶよ」


「いや気にする所そこじゃ――、っと、危ね」


 車が後ろからそこそこのスピードで走ってきた。

 ちょうど道路に水溜りがあって、水しぶきが俺らを襲った。

 傘を持った腕をセンパイがしがみついているので、反対の手をセンパイの腰に庇うように抱きしめた。


「くそがっ! センパイ、濡れませんでした?」


「……。馬鹿、キミこそずぶ濡れじゃん」


「いいんすよ。元々傘持ってなかったし、センパイがいなければもっと濡れて家に帰ってました。大したことないし、センパイを庇えてむしろよかったっていうか」


「んっ」


「ちょっ、不意打ちの『頬ちゅっ』はどうかと!」


「お礼。あとキミに傘を貸した私へのご褒美?」


「ようわからんすけど、めっちゃ周りから見られてますからね」


「咄嗟に私を庇った時点で、もうキミめちゃめちゃ目立ってるからね。誤差だよ」


「そんなもんすか」


「そ。気にしない気にしない」




 なんだかんだあったけど、お互い……少なくても先輩は無事濡れずに駅に着いた。

 ちょっと周りからの目は痛いけど、まあセンパイは美人だし、目立つのも仕方ない。


「んじゃ、ちょっとコンビニで傘買ってきます。地元駅でもいいけど、一応」


「ああ、これ貸してあげるよ。今度キミの家に遊びに行った時、覚えてたら持って帰るからさ」


「いやセンパイ、地元駅からも傘必要でしょ」


「大丈夫、折り畳み傘あるから」


「……ん?」

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