第59話 我慢の限界

「キミに『頬ちゅっ』されなくなって、どのくらい経ってると思う?」


「……、三日ぐらい?」


「はい、正解。なので、我慢の限界です、私は非常にストレスです」


「いや前もそんな頻繁にしてなかったでしょ」


「まあその内にして貰えるかなってって気持ちと、禁止になって我慢しなきゃってのと、全然違うの。驚くほどに辛いの」


「えー……。じゃあ、今頬にキスすればいいんです?」


「それ禁止行為。ていうか、なんか雰囲気が良くない。とりあえずキスしときゃいいでしょ、みたいなのちょっとムカつく」


「ならどうしろと。センパイってほんと我侭ですよね。周りからはサバサバしたクール系って思われてるのに。詐欺でしょ」


「周りの意見なんかどうでもいいの。我侭なの、我侭じゃない女なんていないの、多分、きっと」


「微妙に弱気にならないでください。んで、我侭なセンパイは何をどうしたらご納得されるので?」


「ん……。キスして、唇に」


「は? 地面とキスさせるぞ?」


「ちょっと! 本気でキレないで!? 冗談半分だから!!」


「お互い自重しましょうって約束しましたよね。それで、その冗談は笑えないっす」


「……海外じゃ別に唇どうしのキスも挨拶代わりみたいじゃん?」


「ここ日本、ジャパン。俺は生まれも育ちも日本。センパイは?」


「ジャパンだね。うん、ごめん」


「だからさ、ほんと彼氏作る努力してくださいよ。キスしたいだのなんだのって、結構センパイって性欲強くないっすか」


「いやキスしたいのが性欲って言われるのもどうなのよ。年相応な、そういうあれじゃない?」


「それを俺にぶつけるとか、欲求不満の塊じゃないっすか。男嫌い治して、さっさとそういうのお手軽に出来る相手見つけてください」


「『頬ちゅっ』『耳噛み』『正面ぎゅっ』」


「煽った自覚はありますけど、いくらなんでも詫び多すぎない!?」


「いいから、はよ。……、ううん。キミはそのままでいいよ」


「なっ、ちょっ」


 センパイが俺の膝に正面から座り、そのまま頬に口づけをする。

 そのままセンパイの舌が優しく頬を撫でる。

 

 そして耳たぶを痛くない程度に甘く噛んだ。

 噛みつつも、舌で耳たぶを舐めてくる。


 ぞくっとする。

 なんだろ、頭がくらくらする。

 

「ふふ、いつものお返し」


 悪戯っぽい笑みだけど、ちょっと頬が高揚しているセンパイ。

 凄く、愛おしい。


「ンッ……。なんだ、キミもなんだかんだ、こういうの好きなんじゃん」


 無意識にセンパイを抱きしめ、そのまま頬と、首筋に口付けをしてしまった。

 センパイもそれを返すようにぎゅっと俺の事を抱きしめてくれた。


「私たち、付き合ってないかもだけどさ。こういう関係も悪くないよね。ずっと、ずっとずっと続いたらいいって思わない?」


「ノーコメント。今は無理。イエスとしか言えないっす。冷静になった時に答えさせてください」


「じゃあ、ずっとキミが冷静にならないようにしてあげる」


「……からかうのもいい加減にしてください」


「イヤだね。だって、私の生きがいだもの」

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