第58話 人の噂も

「なあ純。素朴な疑問なんだけどさ、なんで俺とセンパイの噂って消えないの? 人の噂もなんとかっていうだろ?」


「七十五日な。なんでか教えてやろう。毎日当たり前のようにイチャついてるからだよ! さっきだって廊下で橘先輩と腕組んでたろ。そんなに風化させたいなら七十五日我慢しろよ!!」


「いやあれはセンパイの悪ふざけで――」


「それが通じないからずっとお前は橘先輩と付き合ってるって言われてるの。わかる? 俺がとある女子と校内で腕組みしてたらどう思うよ」


「お前の表情次第だな。困り顔なら積極的なアプローチされて可哀想だなと。嬉しそうなら、ついに彼女できたのかって思う」


「お前の場合、嫌な顔しつつも結局橘先輩を振り払わないでしょ? 颯はドライというか、本当に嫌ならずばっと突き放すタイプって思われてるんだよ。なのに橘先輩に対しては甘いっていうか。なんていうの? 嫌よ嫌よも好きのうち、みたいな」


「納得いかねえ」


「んでもって橘先輩は噂では大の男嫌いって評判なんよ。そんな二人が、堂々と腕組みとかしてごらん。もうそりゃ付き合ってる以外ありえないでしょ」


「センパイが男嫌いなのは事実だから何も言い返せねえ。けどなあ、だからって本気で突き放すのもなあって。何とかならないかな、あのからかい癖」


「颯もさ、そろそろ本気で橘先輩とお付き合いするって考え持ったらどうよ。ぶっちゃけ嫌じゃないでしょ。橘先輩にどう思われているかはさておいて、颯自身の考えとしてさ」


「いやー、どうなんだろ。なんか、肩書きが嘘彼女から本当の彼女に変わるだけで、何も変わらない気がするんだよなあ」


「殴っていいよな?」


「ちょっ、おい笑顔で拳を握るなよ!?」


「とまあ本気九割の冗談は置いておいて。校内だけじゃなくて、外でもお前と橘先輩がイチャついてるって目撃情報が多いんだよね」


「いや俺らは人目に付くような――、んんっ。別に俺らはどこにいてもイチャついてなんてませんー。誤解ですー、嘘八百ですー」


「はいこれ。先週後輩から送られてきた写真」


「……おう、いつの間に」


「横浜で思いっきり腕組んでデートしてんじゃないかよ! これ見て付き合ってないって思うのただの現実逃避だぞ!?」


「落ち着け。確かに写真だけならそう見えるかもしれん。だがたかが写真一枚だ、偏向報道だ。てか横浜駅のあの人混みでよく見つけたな!?」


「体格の良い男前と、その隣にはモデル顔負けの美人が腕組んでりゃ目立つわ!」


「身長高くて損した事ないつもりだったけど、今ばかりは後悔している。平均身長でありたかった……!」


「バスケ部の俺が目の前に居てそれ言うの? くれよ、その身長! 取り替えてくれよ!!」


「高身長ほどモテるっていうぞ? お前がそのまま身長さらに高くなったら?」


「うん、今のままでいいや!」


「どんだけ女嫌いなんだよ……」




「てなことがありまして。学校内でうかつに腕組むの禁止、外でも周りに人が居るところでも禁止。オッケー?」


「うん、嫌に決まってるでしょ? あまり可笑しい事言うなら、今度廊下で堂々と頬にキスするけど?」


「え、その、すんません。あれ?」

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