第57話 見栄っ張り?

「キミとお茶する時、色んなお店連れて行ってもらってるけどさ。キミって見栄っ張りだよね」


「喫茶店に行くのに見栄を張る意味がわかりません。美味しい店を紹介してるだけですけど」


「ほんとに? 意地張ってない? 普通はスタバとかドトールとかそういう所でいいじゃん? てか金銭的にマックとかでもいいじゃん?」


「チェーン店を否定する気はないですけど、そこでコーヒー頼んだときの値段と、この店で頼んだ時の値段を比べてください」


「……ここのほうが安い」


「味は?」


「美味しい。種類も豊富だし」


「雰囲気は?」


「静かで落ち着く」


「センパイはどこでも飲めるコーヒーを高い値段出して煩い場所で飲むほうが好きですか?」


「そうね、うん。そう言われると、何も言えないね」


「何も考えなくてもここなら失敗しないっていう店はありですよ。けど、ちょっと足を伸ばしてみると、名店がいくらでもあります。時には冒険は必要です」


「キミはこういう隠れ家的な店探すの好きなの?」


「お袋が、そういうの好きでして。親父が忙しい時はよく連れて出されるんすよ」


「ああ、あのお母様か。なんか納得」


「微妙に腑に落ちないですけど。まあ、これからも気まぐれにセンパイを色んなお店連れて行きますよ」


「この天然たらし。そういうのはちゃんと彼女作って、そういう子に案内して?」


「ええ……、隠れ家って本当に隠れてて、誰にも気づかれず潰れる店多いんすよ。紹介するの渋ってどうするんすか」


「おおう、確かに。流行って煩くなっても困るけど、このお店はずっと続けて欲しいね」


「まあ、赤字経営でもくたばるまで店続けるってマスターが宣言してますけど」


「別の意味で商魂逞しいね!? てか、私たち以外お客いないけど本当大丈夫なの?」


「ピークタイムは二十時過ぎらしいので。どっちかっていうとバーがメインです」


「言われてみると、確かに。なんか、凄く大人びた気持ちになるね」


「まあ大体は常連のおっさんですけど。やれビール焼酎ウイスキーで雑談してます。野球中継見ながら」


「雰囲気台無しじゃん!?」


「それがここの雰囲気です。チェーン店では絶対出来ない、客ありきの店です。そしてマスターはそれを喜んでる」


「なるほどねえ。雰囲気、雰囲気かあ」


「今はセンパイと、静かに二人っきりでお茶したいって思ったから誘いました。この時間帯は客足少ないって喜んじゃいけないんすけど、ちょうどよかったんで」


「ねえ、前の約束覚えてる? ざっくり言うと『節度を守りましょう』的な」


「もちろん。おかげで毎日腕にしがみ付かれて困ってます。だから喫茶店に誘ってちょっとでも距離を置こうかと」


「逆効果だって言っておく。それならこんなお洒落な喫茶店に誘わない。そんな口説き文句言わない。無自覚なの知ってるけど、ビシビシ指摘するからね?」


「え? あ、はい。ありがとうございます」


「『頬ちゅっ』」


「禁止行為です」


「それだけ、キミは無自覚に、こう、その、なんだ。あれだよ! だからお詫び! お詫びなら『頬ちゅっ』はいいの!」


「明日、屋上でいいっすか?」


「絶対、絶対だからね!」

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