第56話 リセット、強くてニューゲーム

「今日の授業でさ――」


「はいストップ! 当たり前のように腕を組もうとしない!!」


「なんでよ、急に。いつもしてるじゃん」


「そのいつもが、冷静に考えておかしいと気づいたんす。俺とセンパイの関係は?」


「彼氏彼女」


「それは周りがそう思い込んでるだけな? 事実は?」


「……先輩と後輩。すっごい仲のいい先輩後輩」


「そんな関係の俺たちが、腕組んだりするっておかしくないですか?」


「全然おかしくないけど」


「じゃあセンパイの周りに、付き合ってもない男女が腕組してるところ見たことあります?」


「ないね。他人なんて興味ないし、スルーしてたかも」


「俺もないです。ここ最近、いろいろスキンシップが過剰じゃないっすか。なんか色々感覚が麻痺してきましたけど、気づいた時点で気を引き締めるべきかと」


「私に触れるの嫌になったの?」


「嫌とか好きとかではなく、節度を守るべきかと」


「守ってるし。誰もいないところでしかしてないでしょ。学校の廊下でいきなり抱きついたりしてないでしょ?」


「されてたら脊髄反射でチョップしてるわ! いやだからそういうわけじゃなくてですね」


「もしかして、彼女欲しいって思えるようになった? だから私とこんな『恋人ごっこ』みたいな事止めたいって思ってる?」


「まだ自粛中です。反省と、相手の気持ちの裏を知る能力が俺にはないです。あとセンパイとじゃれあってるのを『恋人ごっこ』だなんて軽々しいようには思ってません」


「じゃあ別にいいんじゃない? 彼女が出来たら、それこそ毎日腕組んでひっついたり、抱きしめ合ったり、まだ頬までだけど、いずれ唇どおしでキスもするようになるんだよ」


「センパイは彼女じゃないし、彼女代わりでもないっす」


「主張は平行線だね。私は今のままを続けたい。止める理由も、我慢する理由もない」


「最近は仲が良いって範疇を越えてると思います。ちょっと前までの関係が適切だと思います。ていうかこのままもっとスキンシップが過激になりそうでちょっと怖い」


「よし、まずは互いの想いの落とし所を決めよう。折衷案にするか、どちらかが諦めるか。どっちがいい?」


「まずは折衷案で」


「『頬ちゅっ』と『耳噛み』は封印します。あ、本当にキミがやらかした時の謝罪には使うけど。私もちょっと過度だったかなとは思ってたし」


「継続する事は?」


「腕組みと、時々でいいから『膝ぎゅっ』 これぐらいなら良くない?」


「……、まあそれぐらいならいいのかな」


「てことで、改めて。キミの腕にしがみついてると心安らぐんだよねえ」


「あれ? 腕組みオッケーって、前より密着してる時間増えてね?」


「おっと、すぐに気づくとは頭の回転が早くてよろしい」


「ハメられたっ!」


「私はキミにならいつでもハメら、あ痛っ。ノータイムででデコピンやめて!?」


「俺からも一つ。えぐい下ネタ禁止」


「はーい。まあ下品だしね、特にさっきのは」


「……後一つ。頭撫でるのは、どうします?」


「キミが決めていいよ」


「セーフで」


「ん。じゃあこれからもよろしく」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る