第55話 どっち派?
「キミは犬と猫、どっち派?」
「きのこたけのこ論争もですけど、どうして違う事柄を派閥のようにして分けようとするんすかね。俺は猫のほうが好きです」
「ほう、ちなみに私は犬派。きのこたけこのはどっちでもいいよ」
「俺もきのこたけのこはどっちでもいいっす。そもそもどっちも好きじゃないし」
「どうしてキミは両方から刺されそうな考えするかな」
「スナックにチョコってのがそもそも。ポッキーも苦手です。大袋のブロックチョコが最強です。あ、ナッツ入ってるのは邪悪です」
「あ、わかる。板チョコだと食べづらいしね。――ってそうじゃなくて!」
「犬か猫かって話ですか? 俺、犬苦手なんすよ。好きと嫌いがはっきりしてる感じがなんか合わないんすよね。懐いたら無条件で甘えてくるし、敵視されるとずっと警戒してくるでしょ。なんかそれがどうも」
「そこが可愛いんじゃん。この子に好かれてる!って思えると嬉しいし」
「猫は好き嫌いが曖昧なんですよね。うちのお猫様は触ろうとしたら噛み付くし、けど俺が家に帰ると玄関にちょこんと座ってて。でも撫でてやろうとすると手を引っかいて逃げていくの。懐かれてるのかどうか全然わからないけど、でも俺は好きでしたよ」
「……、あの、そのさ、もしかしなくても」
「うちのお猫様は俺が中学卒業する前に天国に行きました。俺が物心付く前からうちにいましたよ。お猫様的には俺のほうがあとから産まれたし、家族の中で一番下っ端扱いだったんでしょうね」
「ごめん。嫌な思いさせた、よね」
「どうしてですか。うちのお猫様との思い出が嫌なわけないっす。お猫様の話する事中々ないし、ていうか多分家族以外だと初めてかも。ほら、見てくださいよ、まだ元気だった頃の写真です」
「キミは、ほんと強いね」
「……俗にいうペットロス? とかそういうの気にしているなら止めてください。生き物には寿命があります。そして種族に差はあります。確かに当時は悲しかったけど、でも楽しい記憶のほうが多いです。うちのお猫様はそれこそ十七年は生きてました。大往生です。今では、俺にとって幸せな思い出ばかりです」
「じゃあ、もっとキミのお猫様の話、聞いてもいい?」
「もちろん。面白話だと、ビビりの癖に好奇心旺盛でして。水嫌いなのによく風呂場に潜り込んでうろちょろしてて。洗濯用に浴槽に溜めたままのお湯を、ちょんちょんと突っついてたら、そのまま滑って浴槽にダイブしました」
「あはっ、なにそれ可愛い。でも溺れたりしなかったの?」
「家族でずっとそれ見てましたからね。犬かきならぬ猫かきで必死で溺れないようじたばたしてました。親父がすぐに救い上げたんすけど、テンパってたのかお猫様は親父の顔をめっちゃめちゃ引っかいてました」
「やっぱ猫って水嫌いなんだね。でもよかった、そのまま溺れてって事なくて」
「実はそのあと、溺れるエピソードがありまして。一つが洗濯機で同じことやって、ぐるんぐるん回されてました。あとはお手洗いを流して戸を開けたら何故か全力で飛び込んできて、そのまま便器に突っ込んで流されそうになりました」
「水嫌いなのか全然わからないね。好奇心旺盛なのかな。ほんと、可愛いね」
「可愛い、か。うん、そうですけど、そうじゃないってうか。姉のドジって感じですね。面白おかしく話せるけど、ペットの可愛い話ではないというか」
「ごめん。意味がわからなくてもいいから、謝らせて。キミの亡くなった家族の話を気軽に聞いていいわけなかったね」
「センパイ相手だから話せるんすよ。見知らぬ誰かの興味本位だったら絶対話さないっす」
「けど、話してて辛くない?」
「うちの自慢のお猫様の話をして、辛い? 茶化さず聞いてくれる信頼している人にして? まさか。嬉しいですよ。俺の拙い話でも、うちのお猫様の事を知ってくれる人がいてくれて、嬉しいっす」
「ほんと、敵わないなあ――」
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