第50話 誠実は時に不誠実

「ヘタレ」


「なんすか……こんな時間に。朝一で罵られるの、何度目っすか」


「私がキミの家に泊まる度だね。ねえ、前に言ったよね。『お泊りデートを調べておくこと』って」


「はい、その日に調べましたよ。そこそこ、そういった男女の意図? みたいな記事読みましたけど、全然共感できないんでその日はぐっすり眠れました。つまらなすぎて」


「……、その、なに、私が本当にそういう意図があって『お泊りデート』してたら、キミはどうするのさ」


「もうちょい冷静になりましょう。『大人になりたい子供』みたいな発想やめてください。『お泊りデート』で検索して出てきた記事が、ほんとキモくて吐きそうでした。とりあえず肉体関係結びたいって、マジかよって」


「大丈夫? キミの年頃でその発想こそマジかよって思うんだけど」


「何でですか? お互い『愛し合ってるか確証がない』のに、そういう行為に及ぶのは、それは『大人』だからですよ。俺はまだ『子供』です。人を本気で愛したことないただのガキです。だから、性欲で相手を傷つける行為はしたくありません。というか、できません」


「ちょっとグサっときた。そうだね、うん、そうか……。ごめん、私が全面的に悪い」


「謝ったな。よくわからんけど謝罪を要求する」


「なによ、ケーキ奢ればいいの」


「こっちゃこい」


 朝起きたら、ベッドのそばにセンパイが居て、俺の頬をつんつんと突っついていた。

 その所為でわりと早い時間に目がが覚めてしまった。

 ……スマホの時計を見ると、早朝4時、朝日が差し掛かる時間だ。

 何故俺は日曜のこんな時間に起きなければならないのか。


 上体を起こし、そのまま膝立ちだったセンパイの腰を掴み、俺の膝の上に乗せた。


「――センパイの髪、思ってた通り触り心地がいい」


「ッ! ちょっ、なっ!?」


 センパイの腰ほどに伸びた髪を軽く触り、そのままゆっくりと手具しで後頭部を辿る。

 そしてゆっくりと、センパイが痛がらないように撫でた。


「やっ、ちょっ、いきなりは、ンッ!」


「センパイ、ダメっすよ。ほんと、これは罰ですからね。『男を誘うような真似』はしちゃダメっす。からかいの範疇じゃなくなりますよ?」


 頭の天辺を撫でる。

 その度にセンパイが膝上で震える。

 怖いだろうな。いきなり男に抱えられて、大切にしている髪の毛を触られるのは。


 けど、センパイが俺以外の男相手にからかった結果、至る未来は本来もっと酷いはずだ。

 男を軽率に挑発するな。

 俺だって男だ。

 俺じゃなきゃどうなってんだよ。




 すげえムカムカしてきて、そのままセンパイの頬に口付けをした。




「ンンンッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「男の怖さを知れ。そしておやすみなさい。二時間後ぐらいにまた起きます」


「ちょっ、抱きしめたまま横になるの!? うそっ、ほんとに!?」


「うるさい、まだ俺はまだ眠いんだ。抱き心地の良い抱き枕になっとけ」


 センパイの甘くて優しい匂いに包まれて、ゆったりとした二度寝をすることになった。

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