第51話 まるで猫のよう
「正座」
「はい、申し訳ございませんでした。寝ぼけていたとはいえ、あんな行動をしてしまい、反省以外の何事でもございません」
「土下座まではいいから! 頭上げて! それよりもあの後四時間もキミの抱き枕代わりにされた私の気持ちを答えよ」
「怖い、もしくは気持ち悪い。寝汗で臭かったとか?」
「あ、そういう本当にキミの事を嫌うようなのじゃないから。で、もう一度」
「暇でした? 時間も時間だし気にせず寝れば良かったのに」
「あの状況で寝られるわけないでしょ!?」
「もしかして力入れすぎてました? 痛むところとかあります? 湿布ならすぐに用意できますが、場合によっては病院に――」
「痛んでるのは心だよ! はあ、もう。そうだよね、もう……期待した私がバカみたい」
「よくわからないけど――」
「うっさい。わからないなら謝るな。あ、でも謝ろうとしたね? 全面的にキミが悪いって自覚があるんだね?」
「そりゃもちろんです。センパイが男嫌いなの知ってて、あんな事をして嫌な気持ちにさせてしまったと思っています」
「謝罪を要求する! キミ、正座はそのまま」
「え? あ、はい」
センパイをそう言うと、俺の膝に頭を乗せた。
「撫でて。髪とか、頭とか、おでことか、頬とか」
「……、それでいいのなら」
まずは頭をゆっくりと撫でる。
センパイは心地良さそうに目を瞑っていた。
そのまま頬を軽く触れる。
センパイが少し体を強張らせた。
やっぱり男の俺に触れられるのは嫌なのでは?
「手、止まってる。もっと」
「うっす」
頬を優しく撫でる。そして柔らかい耳たぶを指先で軽く揉む。
膝越しでもわかるぐらい、センパイの体が震えている。
「一応言っておくけど、全然嫌な思いしてないからね。体が反応するのは、その……気持ちいいだけだから。マッサージされるとつい反応するでしょ? そんな感じだし。嫌なら嫌って言うから、もっと、気にしないで撫でてよ」
「ではお言葉に甘えて」
センパイを撫でるの、正直楽しい。
反応が可愛い。
嫌悪で震えているわけではないとわかると、まるで猫を撫でているような気分になる。
手触りの良い髪、柔らかい肌。
センパイの気持ち良いところを触れると素直に反応してくれる。
「これ、なんの謝罪なんすかね」
「頭撫でてくれたあと、そのまま何もしてくれなかった罰。もっと撫でで欲しかったのに、キミはすぐ寝ちゃうし」
「そういうことでしたら、いっぱい撫でます。センパイの髪、ほんと触ってて……嬉しいって気持ちになります」
「嬉しい、か。うん、どういたしまして」
「それじゃお返しに。一旦頭を上げてもらえますか?」
「まだ許してないけど。謝罪は続けてよ」
「もちろん、また膝に頭乗せてもらっていいっす。センパイの気が済むまで撫でますし」
「そう? じゃあ」
「こっち向いてください」
「ん」
センパイが膝から起き上がり、そして俺の正面を向いてくれる。
そして俺は、センパイの右頬にキス――ではなく、耳たぶを軽く噛んだ。
「ンンッ!? なに、えっ?」
そしてそのままぎゅっと正面から優しく抱きしめた。
センパイが痛まないように、けれど喜んでくれるように。
センパイは体を強張らせつつも、ゆっくりと俺の体を抱きしめてくれた。
優しく耳たぶを噛むたびに、ぎゅっと強く抱きしめてくれた。
「センパイ、耳を触ると結構気持ち良さそうにしてたんですが、どうっすか」
「今度から『耳噛み』という謝罪が追加されました。いきなりすぎて驚いたんで、さらに『耳噛み』を要求する」
「さすがに外ではしないっすからね」
「わかってるよ。私も恥かしいし。だから、キミの家だけでの事だから。……だから、もっといっぱいして」
「喜んで。それと、頭も撫でて良いすか?」
「もちろん」
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