第47話 手の皺を合わせて

「キミはさ、体が大きいし手も大きいの?」


「体格と手の大きさが比例するとは限らないんすけど、まあそこそこ」


「見てもいい?」


「はい、どうぞ」


「わっ、大きい。この手にいつも抱きしめられてたんだね」


「だから言い方! 俺の手の大きさあんま関係ない!!」


「ふむふむ、触った感じは結構柔らかいね。ちょっと乾燥気味だけど」


「ほぼ毎日家事してますからね」


「ハンドクリームしないの? ひび割れしてからじゃ遅いよ」


「本当はしたほうがいいんでしょうけど、なんか忘れてしまいます。んで、ケアしないとって思い出す時は料理する前が多くて、今付けたら材料にハンドクリームついちゃうなあって思って後回しにして、んで忘れる。大体そんな感じですね」


「じゃあ、今私が持ってるのをつけてあげる」


 センパイがそう言うとカバンからハンドクリームを取り出した。

 薬指にハンドクリームをひねり出し、それを両手に揉みこんで、そしてクリームを追加して。

 俺から見て過剰なほどのクリームを、センパイは自分の両手に擦り込ませると俺が差し出した左手を片手でゆっくり撫でた。


「結構凝ってるね。指先も硬い。どう? 痛くない?」


「……ちょい痛いけど気持ちいいって感じです」


「やっぱ凝ってるんだね。リンパ流す感じで揉んでるけど色んな所にしこりがあるね。内蔵とか大丈夫?」


「特段患ってはないんすけど、手だけでわかるものなんすか」


「独学だけど、ツボとか凝りとか、結構調べてるんだよね。ここが痛いと、こんな内蔵が傷んでるってのかな。私、ちゃんと健康かなって不安になった時、自分のそのツボみたいなの押して、痛くないから健康かな?って安心を得てる」


「健康マニアなセンパイから見て、俺はどうです?」


「キミ、最悪。左手だけでこんなんじゃ、絶対もっと痛んでるよ? ちょっとぐらい自分を労わろう?」


「自覚がないんで、どうしようも」


「もう、しょうがない。私がキミの世話をしてあげるしかないね」


「なんでそうなるんすか。うひゃっ、いきなり両手で変に揉まないで!」


「ここ、ぎゅっとするけどどう?」


「痛っ、痛い!」


「胃がちょっと痛んでるね」


「誰のせいでっ……! 痛っ!」


「んじゃここは?」


「ッッッ! めっちゃ痛いっす!!」


「小腸もか。じゃあここは?」


「そこはちょっと気持ちいいっす。痛気持ち良いって奴」


「目と耳は大丈夫なんだね。じゃあここは?」


「ぴりっとするぐらいっすね。でもなんか気持ちいいです」


「首と肩もまあ大丈夫そうだね。なんか消化器官が結構弱ってるね」


「なんなんすか。何がしたいんすか」


「キミの健康診断、っていう体で、キミの手を握ってたい」


「痛みの謝罪として『頬ちゅっ』を求める」


「ん、いいよ」


「ってちょっとは躊躇え! 冗談! いつもセンパイがそう言うから真似しただけで本当にして欲しいわけでは」


「私に『頬ちゅっ』されるの、嫌?」


「ああ、もう! 嫌なわけないでしょ!! そうじゃなくて――」


「んっ――。おかわり、いる?」


「痛かったツボ分、ください」


「唇にしてもいい?」


「それは流石にやめて!?」

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