第46話 お互いの好き

「生チョコムースケーキ、アッサムティーをミルクで。あ、角砂糖もください」


「チーズケーキと、キリマンジャロをブラックで」


 お互い喫茶店で好きなものを頼む。

 ――俺の支払いで。


「センパイってやっぱ甘いの苦手っすか? いっつもそういう、苦い感じの頼みますよね」


「ん? 苦手ではないよ。好きかどうかって言われると、ちょっと苦いほうが好きだけど」


「俺とは正反対っすね。俺は甘いものは甘い程大好きっす」


「知ってる。この喫茶店で頼む飲み物、いつも砂糖盛ってるし」


「センパイらしくないっすね。ここはクール気取ったポンコツらしく実は苦いの嫌いー、のほうがキャラクター性でますよ」


「は?」


「もう怖くないですー。そのガチの睨みも三回目なら怖くないですー」


「あのね、キャラクターがどうとか私が気にすると思うの?」


「むしろ聞きたい。センパイは完璧なようでポンコツだし、年上のようで年下みたいに無邪気で、綺麗だけど可愛い。無理して俺の前でかっこつけてないっすか?っていう質問っす」


「あとで『頬ちゅ』ね


「『膝ぎゅっ』のような単語にしないでください。正面向いてセンパイの頬にキスするの、ほんとめっちゃ恥かしいんですけど」


「だから言ってるの。侘びの『頬ちゅ』ね」


「くっ、ここの支払いすら俺なのに更に要求が増えた……!」


「キミだって、そんな風体してて甘いもの大好きじゃん? それをからかわれてどう思うよ」


「いやなんとも。好きなものを好きと言って何が悪いんですか?」


「でしょ? 私はちょっと苦い飲み物が好き。ケーキは甘すぎないほうが好き。それだけ。キャラクター性とかどうでもいいし」


「確かに、卵焼きもしょっぱい派だし、なんとなくセンパイの好みがわかってきました」


「まあ、甘いのも好きだけどね。けど自分で頼もうとすると、ついね」


 そんな話をしていると、お互い頼んだケーキと飲み物が運ばれてきた。


「うめえ。ああ、幸せ」


「そんなに? 一口ちょうだい?」


「いいっすよ、このふわっとしたムースの絶妙な甘さが最高っす」


「……、あーん」


「わざとでしょ。俺は言いませんけどね」


 フォークでケーキを一口、口を大きく開けたセンパイに咥えさせた。


「んーっ、甘い! 美味しい!」


「でしょ? センパイが頼んだコーヒーともそれなりに相性がいいと思います」


「じゃあお返し。あーん」


「だから、絶対に言いませんからね。あざっす」


 差し出されたチーズケーキを口に含んだ。

 チーズケーキの独特の甘さ、ほんのりしょっぱい味が堪らない。


「ふふっ。いいね、こういうの」


「はい。自分じゃ頼まないものを口に出来るってお得ですよね」


「……まあ、うん。そうね」

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