第42話 方言女子なセンパイ
「話してて時々思うんすけど、センパイって結構方言出ますよね」
「? いや生まれも育ちも横浜だけど。訛りとかあった?」
「だからですかね。語尾に『じゃん』って結構言ってる気がする」
「いやまあ、生粋のハマっ子なんで、語尾ぐらいは許してくれじゃん?」
「流石にわざとらしい」
「ていうか横浜で生まれ育って横浜市民しかいない環境で育って、今も横浜市民しかいない高校に通ってて、方言とか気にすると思う?」
「いや俺も昔はこれが方言だと思わなくて、ただ目にした本で『横浜弁』なるものがあると知ったとき、なるべく使わないようにしましたじゃん」
「なんでさ。つか語尾の『じゃん』ぐらい横浜市民以外でも使ってるっしょ」
「ほら言ったそばから方言。語尾に『っしょ』」
「別にいいでしょ。聞き取れないわけでも伝わらないわけでもないじゃん」
「わざと言うのやめてじゃん。まあ、でも横浜って狭い世界だと当たり前でも、ちょっと広い世界に出ると『あ、こいつ方言丸出し』って思われるわけですよ」
「それの何が悪いじゃん?」
「……あれ? 別に悪くないっすね。言葉は言って聞かせて伝われば問題ないっすね」
「逆になんで方言を言わないようにしようと思ったじゃん?」
「そろそろうざったいんでやめてください」
「ちなみに『うざったい』も方言だからね。横浜弁なのか関東弁か微妙だけど」
「……、まあよほど拘りがない限りは標準語のほうがいいなって。本を読んでて、明らかに方言が強いのを見てるとモヤっとするんで。人に伝わりやすい言語を心がけようかと」
「まあ、うーん。それはそれでキミの想いだから否定はしないけど。ところで『方言女子』ってのが一部男子にウケがいいんだけどどう思うよ?」
「『方言女子』なる単語が初耳です」
「言葉通り方言でしゃべる子が可愛いって思うらしいよ。博多弁とかが特にウケがいいらしいよ」
「はあ。方言で可愛い可愛くないを決めるとか、よほど視野が狭いんでしょうね」
「いやいやそうじゃなくて……。ごめんキミにそういう現実の繊細な感情を聞いた私が悪かった」
「関係あるかどうかはわからないですけど、出身地聞かれたときに『横浜』っていうとお高くとまってると思われるらしいです」
「いや出身地としては事実でしょ」
「一般的には都道府県、つまり『神奈川県』と答えるところをあえて『横浜』と言うのが稀に顰蹙を買うとなんかどっかの本で見ました」
「どうせ『神奈川のどこですか?』って聞かれるのにね。東京都民が『東京です』って自己紹介されても『東京のどこだよ』ってなるし」
「今はずっと横浜市内の学校に通ってますけど、センパイは都内の大学に進学するし、俺もそこを第一志望にしてます。まあ、無意識に横浜に縛られてると嫌な思いするかもねってぐらいの話題でした」
「まだ遠い先の話だけど、私が大学に行って言葉遣いとか出身地で周りに疎まれたらさ」
「あ、大体聞きたい事わかるんでいいです。普通にいつも通り気晴らしに喫茶店にでも呼んでください。あと、本気でセンパイに危害加える奴がいたらぶっとばすんで」
「……『ぶっとばす』も方言。でも、うん、ありがと。卒業して進学してってまだ凄く遠い先の話だけど、なんか急に不安になっただけ」
「すんません。なんか脅かすようになって。ただ、知っては欲しいです。結構世界は安易に残酷で、言葉一つで悪意を向けられます。知らないままよりは、きっとマシです」
「後輩に説教された。屈辱。『膝ぎゅっ』」
「ええ……、最近ペナルティが厳しくないっすか」
「前にキミが言ってたでしょ。『男だから侘びになってない』って。ご褒美半分」
「よくわからないっすけど、どうぞ」
「……、絶対私の大学に来てね。じゃないと、むしろキミの方が心配なんだよ」
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