第41話 やっぱり無し、は通じますか?

「やっぱみなとみらいデート、辞めません?」


「は?」


「前にセクハラした時より怖い目しないで。てかセンパイのガチで怒った口調初めて聞いた気がします。たった一言で背筋が」


「理由、説明。あと正座」


「えっと、そもそもデートを誘った理由が『最近センパイが元気ないから、デートで少しでも気晴らしになれば』って思ったんすよ。でももうセンパイいつも通りじゃないっすか。んで『あれ? 別にデートしなくてよくね?』って」


「こんっの……! うっさい、ほら、正座がまだ!!」


「痛いっ、脛を爪先で蹴らないでっ。わかりました、わかりましたから!!」


「まあ? キミの言いたいこともまあわかるよ。確かに? ちょーっと色々思う所があったけど、吹っ切れたし? けどそれとこれとは別じゃない?」


「センパイ、怒鳴られようが引っぱたかれようががいいんで、現状報告。仁王立ちのセンパイと正座の俺、この位置関係だとセンパイの顔が見えないっす。主に乳のせいで」


「正直でよろしい。私も座るから」


「あっ、怒らないんですね」


「別に嫌らしい目で見てたわけじゃないでしょ。事実なら、仕方ないよ。正座させたの私だし」


「あの、ところで俺の正座は」


「継続に決まってるでしょ!」


「あっ、はい。すんません」


「話を戻すと、私が元気になったからデートしてやらないと。へえ、キミは怪我してる患者に対し『傷が癒えてるんで治療辞めます』っていう医者をどう思う?」


「……。センパイが傷ついていたのかそうじゃないかはわからないんすけど、その例えだとまだセンパイは完治してないってことですか?」


「うーん、どうだろ。そうでもあるし、そうでもないし。だけど、やっぱなしは流石に傷つくよ? 新しい傷をつけてどうするの? 生娘を傷物にするの?」


「表現! まあその一応言い訳としては、みなとみらいデートって考えれば考えるほど『本当の恋人と行くものかも』って思ってしまって。センパイを元気付けるどころか、そういう雰囲気の中に連れ出すのってどうかなあって。センパイって男嫌いだし、カップルまみれの場所に連れて行ったら窒息するんじゃって」


「キミ、ほんとこれ言いたいと常々思ってた。私を何だと思ってるのよ」


「美人だけど男嫌いでアンチ恋愛な残念ポンコツセンパイ」


「よし、この話の後に頬にキスね」


「そういうところっす。何かあるとキスだの抱きしめろだの。男嫌いで彼氏要らないみたいな事言ってる癖して、なんで俺に詫びでそういう要求してるんすか。このポンコツ」


「ポンコツでいいから、『膝ぎゅっ』も追加で」


「膝にセンパイ乗せて後ろから抱きしめるのがいつの間に『膝ぎゅっ』という固有名詞になったのか。いやほんといつですかね」


「結構経つんじゃない? 私もなんかこう言っておくとなんとなーく伝わるからつい言ってるだけだし」


「時の流れって怖い。てことで、『膝ぎゅっ』の為に――」


「話終わってない。正座続行。崩さない」


「あ、はい」


「もうこの際はっきり言っておくけど『キミからデートに誘われたから』嬉しくて色々吹っ切れたの。それを『やっぱなし』は幾らなんでも怒って当然じゃない?」


「はあ、んじゃ。代わりにうちで映画デートにしましょう。これで二回目のお誘いになるますけど、元気でましたか?」


「――キミにしては悪くない返し方だね。うん、まあ、確かにみなとみらいに凄く行きたかったわけじゃないし」


「じゃあ、今週末はみなとみらいからうちで映画デートに変更で」


「もちろん泊まるから」


「もちろんの意味がわからない!」


「お母様とお父様にちゃんと伝えておいてね。じゃないとまた一緒のベッドだよ」


「ていうか本気ですか。俺としては一緒の部屋で寝泊りじゃなきゃいいんすけど、うちの両親に絡まれて楽しいんすか」


「実は結構楽しい。別に私の親が冷たいわけじゃないけど、なんかキミのご両親だなあって感じの独特の暖かさがあるんだよね」


「まあ、センパイがそういうなら。とりあえずお袋には今すぐ連絡しときますね。お袋がオッケーすれば親父はなんも言わないし。そもそも断られることはないと思いますが」


「ここで提案。今のところ『みなとみらいデート』が『映画デート』ってなってるじゃない? でも私お泊りするじゃん? 『お泊りデート』って名前に変えない?」


「はあ、いいっすけど」


「この単語を後で調べておくように!」


「今じゃダメなんすか」


「はずいからダメ。あっ、正座解いていいよ。座りたいから」


「どうぞ」


「足、痺れたりとかしないんだ」


「慣れて……はないんすけど、今の現代人よりは正座する時間は長かったほうなんで」


「今日みたいに怒られて?」


「稽古で」


「あー。あー……。聞かないほうがいい?」


「できれば」


「うん、わかった。よし、ほれ、ぎゅっ、あとキス」


「俺も常々言いたいことがあります。俺、男ですからね。センパイを膝乗っけて抱きしめて、頬だけどキスも出来て、わりと嬉しいって思ってます。なんも思わないわけじゃないんて、侘びのために要求されてもご褒美にしかならないっすよ」


「ンッッッッッッッッッッッッ!」



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