第39話 傷つけないと、自身が痛い
彼には申し訳ないけど、当分はラブレター事件でからかってやるつもり。
だって、たかが手紙一つで今まで見せてくれた以上の笑顔をしてたから。
むかつく。むかつく、むかつく、むかつく――
彼が無邪気な笑顔を見せてくれたの、球技大会でのバスケの時ぐらいだ。
あ、よく振り返ると意外と多いか。甘いもの食べてる時はわりと無邪気に笑ってる。
まあ普段むすっとしてて、笑っても皮肉めいた表情なのに。
でも、そんな彼だからあんな無邪気な笑顔は私にしか向けられないと、勝手に思い込んでいた。
たかがラブレター如きに、私は負けたのだと思ってしまった。
いや実際にその笑顔を見たのは、ラブレター女子には悪いけど私なんだけど。
とはいえ、いくらなんでも中身見てないとか思わなかったし、指定場所が屋上だなんて不運にも程があった。
確かに私と彼とは「お付き合い」はしていない。
けれどそれはお互いの認識の問題であって、周囲からどう見られるかは別問題だ。
ほぼほぼ隣り合わせに座って笑いながら雑談をしていた私たちを見て、ラブレター女子はどう思っただろうか。
逆の立場を思うと、心が裂けそうになる。
まるで告白を断るためにわざと仲の良さを見せ付けられた。
私ならそう思うだろう。
ラブレター女子がどう思ったかわからないけれど、泣きながら去っていた事から多分同じような気持ちなのだと思う。
まあ、これは完全に彼が悪い。
私はむしろ巻き込まれただけだ。
けどあの瞬間のまるでこの世に絶望したかのような真っ青な彼の顔は、きっと生涯忘れないだろう。
彼は何に絶望したのだろうか。
彼女が出来る可能性を自分で消してしまったからだろうか。
『俺を思いっきりひっぱたいてください』
この一言で、彼は単に自分の過ちを悔いているだけなのわかった。
だから簡単に許してあげてはいけない。
自分の力と、あと私のちょっとした後押しでこの出来事は解決するべきだと思った。
まさか全力で自分を殴って壁に頭をぶつけるとは思わなかったけど、まあ彼らしいといえば彼らしい。
告白を断った聞いて、嬉しいと思った自分が憎い。
あげくに膝の上に乗せてもらい、後ろから抱きしめてもらった。
なんて醜い嫉妬。
私のほうが彼と親しい。
私のほうが彼に大切にされている。
私のほうが彼と触れ合える。
そんな、私のくだらない自尊心の為に彼の心の隙を付いた。
しかもまるで私が彼に何かしてあげたかのように、ご褒美として。
最低すぎる。
ある日、廊下で彼とラブレター女子が仲良さそうに話してるのを見かけた。
――こんな感情抱きたくないのに。あの時にあれだけ後悔したのに。
私は、また嫉妬してしまった。
もう私も私で相当まいっている。
だからその日の放課後に彼を呼び出して、ラブレター女子とどういう関係なのかを聞き出した。
彼にとって、まだ心の傷が癒えていないとわかっていて聞いている私、最低。
だけど、そうやって彼を傷つけて、その傷を慰めてあげようとしないと、多分、きっと色々ダメになると思った。
「膝、ぎゅっ」
「今日は頬にキスも付けましょうか」
喜んで受け入れた。
喜びと同じぐらい、心が痛かった。
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