第38話 傷は塞がる前に抉ろう

「ところでさ、キミのほんっとに残念な出来事に巻き込まれたラブレター女子と、あれからどうなったの」


「配慮。配慮がないっす。普通もうちょっと時間経ってから聞きません?」


「時間が過ぎて、こう失敗が思い出になるとさ、人間って全部美談にするものかなって。そうじゃなくて、キミが本当にまだ悔いてる今だから聞きたいの」


「そうっすね。まあ、仲良く……はしてると思います。少なくても俺のほうは」


「例えば?」


「クラスが二つ隣なんであんま会わないんですけど、廊下で会ったら挨拶したり。選択科目が同じ文芸だったんで、その時は隣の席で軽く雑談するぐらいっす」


「なんだ、結構普通にしてるんだね」


「どうなんすかね。少なくても……相手は俺のこと、好きって思ってくれてるんすよ。友達からって言ったとはいえ、それってきつくないっすか」


「そう? 私はばっさり切り捨てて、もう話しかけるなって言うぐらいだけど。それに比べたら全然いいんじゃない」


「もし普通にちゃんとラブレターを読んで、ちゃんと告白されてたらそうかもしれないっすけど。状況が全然違います。本来、俺はただのクソ野郎で、軽蔑されててもおかしくないっす」


「キミのそういうところ、ほんと不器用だよね。鈍感なのに、誠実。ちゃんと相手のことを考えてる。まあ大体後手だから失敗ばっかりだけどね」


「だからもう俺、二度と――」


「そうだ、ごめんね。私もこれは謝らないとって思ってた。キミ、『彼女作るのやめます』って言葉に肯定しちゃったけどさ。相手を傷つけたままだったら、まあその方がいいかもって思ったけどさ。今もその子に優しく接してるんでしょ? じゃあ彼女欲しいって思っても良いんじゃない?って」


「当分無理っす」


「そう、当分でいいよ。もっと後悔して、ちゃんと反省して、それでもって思ったら堂々と『彼女が欲しい』って言いなよ。それまでは私が隣に居るから」


「……あざっす」


「ところで、ちゃんとラブレター読んでたら、キミがどう返事してたの? 聞いても良い事かな、これ」


「いや最初の話題のほうがヘビーなのに今更遠慮されても。普通に断ってましたよ。まったく同じ事を言ってたと思います」


「なのに、罪悪感を感じるの、何か変なの。やっぱキミって変わってる」


「相手の気持ちを正面から受け止めて断るのと、今回みたいに完全に蔑ろにしたのとじゃ全然違います。相手の本心は真摯に受け止めて、その上で自分の気持ちを返すべきです」


「……おっと、耳が痛いよ? 相手の気持ち考えずに男の告白断ってる私って相当人でなし?」


「まあ、ぶっちゃけると。その上で俺のことを『彼氏』って噂を否定しないで男避けしてるのも、まあ結構不誠実ですよ」


「まさかの仕返し?」


「いや事実なんで」


「別にそんなつもりじゃないけど? キミの事を男避けなんて思ったことないし。それは流石に傷ついた。キミ、ほんと相手の気持ちを理解しようとするタイミング、下手すぎ」


「……すんません」


「膝、ぎゅっ」


「今日は頬にキスも付けましょうか」


「是非!」

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