第37話 人生初のラブレター

 登校し、下駄箱を開けると一通の手紙が入っていた。

 え、これラブレター? マジで?


「純、見てくれ、俺もついにモテ期が」


「そう、よかったね」


「くそが。貰い慣れている奴に報告した俺が馬鹿だったよ」


「別の意味で馬鹿だよ颯は」



 放課後、珍しく俺のほうからセンパイを屋上に呼び出した。

 そしてラブレターを自慢した。


「ふーん、よかったね」


「センパイもっすか。これだからモテる奴は」


「てかさ、そのラブレターさ、中身見た? どう見ても未開封だけど」


「……あっ」


「ばーか、鈍感、女の敵、貰った嬉しいはい終わりとか、最低だよ」


「反論の余地もございません」


 俺は今朝もらった手紙の封を開け、中身を見る。


『放課後、屋上で待ってます』


「え、ここじゃん。どうすんの!?」


「実はセンパイのいたずらって事は」


「あるわけないでしょ!!」


 なんて現実逃避をしていると、一人の女子生徒が屋上に現れた。


「……。ごめんなさい!!」


 この場の状況を見て、その子は一目散に逃げ出してしまった。


「センパイ。お願いがあります」


「やだ」


「俺を思いっきりひっぱたいてください」


「やだって言ってるでしょ」


「そこをなんとか」


「叩く方も手は痛いんだよ。キミが叩かれて、それで許された気になるなら、絶対にイヤ」


 俺は俺の頬を思いっきり引っぱたいて、あと壁に頭をぶつけて、ついでに水月を力いっぱい付いた。

 この程度の痛みが、あの子が負った痛みに匹敵するとは思わない。


「ちょっと行ってきます」


「がんばれ少年。キミなら大丈夫だよ」




 見知らぬ女子だが顔は覚えた。

 屋上を出て校舎内を探し回った。

 運よく、美術室でうずくまっているその子見つけられた。




 ラブレターを貰って舞い上がって中身を読んでいないこと。

 センパイと付き合ってないこと。

 ラブレターを貰って嬉しかったこと。

 でもその気持ちには応えられないこと。

 是非お友達からはじめようと。

 

 ありったけの本心を伝えると、涙汲んでいたその顔が笑顔になって――


「欅君ってやっぱ変わってるね。まあだから好きなんだけど」


 そう言ってもらい一応この話は解決した。



「もう俺、やっぱ彼女作るのやめます」


「うん、私もそう思うよ。キミとそういう関係になれる人はきっと物好きで変わり者で、きちんとキミを知ろうとしてる人だけだよ」


「ますますへこむ、そんな奇特な奴いると思います?」


「まあ、一人ぐらいはいるから安心して?」


「安心の意味とは」


「とりあえず、キミの為に私もちょっとお手伝いしました。後押しだけだけどね。だからご褒美に膝貸して」


「ん? いいっすけど」


「もちろんぎゅっとしてね」


「それぐらいなら全然」


「……ラブレター女子、あなたに勝ち目なんかなかったんだよ」

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