第36話 センパイからのご褒美

「おお……。ここが楽園か」


「まさかスイーツビュッフェで、キミがそんな目を輝かせるなんて思わなかったよ」


 先日の球技大会のご褒美、という事でセンパイの奢りで桜木町にあるホテルのスイーツビュッフェに連れて行ってもらった。

 見渡す限りのスイーツ。

 楽園がここにはあった。




「てか、あのあともガンガン点入れるんだもん。一点毎にケーキ一個奢ったら財布空っぽになるから、ここで手打ちに」


「いえ、こんな素晴らしい所に連れてきてもらって嬉しいっす。……何食べてもいいんですよね」


「そりゃビュッフェだしね。それじゃ取りに行こうか」




 俺は、定番の苺のショートケーキをはじめ、ショコラケーキ、フルーツタルト、モンブラン、プリンアラモード、パンケーキ、さくらんぼゼリー、抹茶あんみつ、杏仁豆腐をトレーに入れ、最後にダージリンティーをティーカップに汲んだ。


「えっ、何その量。フードファイター?」


「甘いものは別腹です」


「その言葉の使い方違わない? 甘いものしかないよ?」


「甘いものの胃は別次元にあります」


「まあ、その、食べ残さないならいいんだけどさ」


「センパイはむしろ少なすぎじゃないっすか? パンケーキだけ?」


「ここのパンケーキは絶品だってネットで見た。ドリンク付きとはいえ、これで3000円はちょっと高いかもしれないけど、あくまでキミへのご褒美だしね。足りないなって思ったらまた取りに行くし」


「次、何食べようかなあ!」


「その量を前におかわり前提!?」




 センパイと雑談しつつも、黙々と目前のスイーツを口に運ぶ。

 美味い。もう最高。幸せ。

 球技大会がんばってよかった。




「でも惜しかったね。意外と勝っちゃうかなって思ったよ」


「メンバーがわりと本気でやってくれてたし、全員運動部のエース級でしたからね」


「でも、普通にキミの親友――、榊君だっけ。いい勝負してたよね」


「体格差と、自分でいうのもなんですけど運動能力差です。あいつは1on1より、ポイントガードやって試合の流れを有利にするほうが向いてます。実際、最後はポジション戻してましたしね」


「バスケ部エースと一対一できて、最後に本気出させるとかキミってやっぱ凄い人?」


「これでも体育の成績は大体いつもトップです」


「マジで。キミこそ助っ人に誘われたりされるべきじゃないの?」


「男の意地、なんですかね。それか友情なのかな。やっぱ部活として試合するなら、仲間と頑張りたいって感じですね」


「ふーん。男って意外と、そういうところしっかりしてるんだ」


「あっ、ちょっとは男を見直しました?」


「ちょっとね。普段、男子が本気で何かしてるっての見ないからね」


「今度バスケの試合見に行きます? ちょうど純――榊から応援に来てくれって言われてるんす。あらかじめ誘われてるんで俺は絶対に行くんですけど」


「ほんと? じゃあちょっと行ってみようかな」


「よし、これでセンパイの男嫌いが」


「試合一回ぐらいで治るか!」





 二時間の時間制限はあるが、最初に選んだスイーツはさくっと食べ終え、今は各種のアイスクリームを取り、飲み物はコールドのディンブラティーを選んだ。

 バニラアイスクリームとの相性がいいんだよね、この紅茶。

 一応口直しにお冷も用意した。


「あっ、このバニラ。すげえ濃厚。センパイ、一口どうっすか」


 パンケーキの後、ビターチョコケーキを一切れ食べてもう食べられませんって顔をしているセンパイに、スプーンですくったバニラアイスを差し出した。

 センパイは少しきょとんとした目を向け、そのまま口にしてくれた。


「あっ、美味しい」


「よかった」


「……キミから、あーんしてくれるとは思わなかった」


「ああ、そういやそうなっちゃいましたね。まあ、もう今更これぐらい」


「なんだろ。頑張るほどキミの感覚が麻痺してむしろ逆効果?」


「何言ってるかわからんすけど、アイスぐらいなら簡単に食べられますし、取ってきたらどうです? 代金の元取りましょ?」


「もう十分元取れてるからいいの。もう一口頂戴。さすがにそれ以上は無理そう」


「はい、どうぞ。ディンブラティーをちょっと付けたのもいい感じですよ」


「もうこれキミのじゃなくて私のご褒美じゃない?」

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