第35話 刹那的な欲求も、まあ年頃だしあるよね

「キスして」


「は? 嫌ですけど? 急にどうしたんす?」


「キミにキスされると、こうゾクゾクっていうか、なんていうか、すっごく心地いいの」


「俺、この事実を何度も何度も、もう飽きるぐらい言ってますけど。俺とセンパイ、そういう間柄じゃないっすよね」


「いいじゃん、頬だし。何度もしてもらってるし。減るものでもないし」


「まあ確かに? 減るのは俺の精神力だけですけど? 頬のキスでそんな風になるなら、ちゃんと彼氏作って、ちゃんとしたマウストゥーマウスなキスしたらいいんじゃないっすか?」


「じゃあ唇でもいいよ?」


「あの、これも結構毎回言ってますけど、そういう冗談は止めてください。俺が思春期特有のあれやそれだで本気にしたらどうするんですか」


「もちろん責任取ってね」


「法廷っすか」


「いや違うけど。ああもういい。いいからキス、頬でいいからキス」


「だから嫌ですって」


「癒されたい、満たされたい」


「だから、どうして急に。なんかあったんすか」


「何かないと、幸せな気分になっちゃいけないの?」


「そういう、何気ない時でも幸せになれるように、彼氏を作ってその人に頼んでください」


「や。今すぐ。はよ、キス、キス!!」


「……、ほんと何もないんすか? センパイがここまで直球で、しかも頑固にせがむの初めてっすよ」


「何もない。何もないから、その、困ってる。別になんか困ってるとか不満とか、寂しいとか悲しいとか、ほんとなんもない。ないんだけど、キスして欲しいってふと沸いたの」


「仲の良い女子にでも頼んでください。相手が男である意味あまりなさそうです」


「やだ。私、時々女友達に抱きつかれたりみたいなスキンシップされるけど、正直ちょっと気持ち悪いなって思う」


「じゃあ彼氏作ってください」


「話ループしてるよ? 今だからね。今ここでの話だからね?」


「俺も俺で思うことがあるんすよ。俺とセンパイのような『仲の良い先輩後輩』が、頬とか額とかにキスするって普通か?って。普通じゃないっすよね」


「私、その『普通』っていう周囲がそうだから自分もそうでなくてはならない、みたいなの嫌い」


「それは置いといて。キスされて嬉しいなら、ほんと彼氏作ってください。今すぐ無理でも、そのキスされたい欲求は我慢して、それを糧に彼氏作り……の前に男嫌い治そうってしてください」


「……まあうん、いいよ。でもその代わりの、ちょっとしたご褒美頂戴」


「ご褒美? センパイなんもしてないっすけど」


「今、キス我慢! 次、もっとがんばる! そのご褒美!!」


「まあ、いいっすけど」


「ぎゅってして」


「アホか。彼氏にしてもらえ」


「話がループしてるってさっき言ったよね」


「……。まあ落ち着け。あと、俺の膝に座れ」


 先輩を抱き上げ俺の膝に座らせる。

 膝にかかる重みは凄く軽くて、センパイの甘い匂いがする。

 

 そしてセンパイを後ろからぎゅっと抱きしめた。

 センパイの柔らかくて、ちょっと力を込めたら折れてしまいそうな感覚が、少し心地よかった。

 

 愛おしい。

 多分、そういう感覚なのかもしれない。


「まあ、これぐらいなら俺とセンパイの仲ならセーフかと」


「ンッッッッッッッッ!!!!!」

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