第33話 一生に一度の思い出作り

「ねえ見てよ。やっぱウェディングドレスって憧れるよね」


 センパイはティーン向けの女性誌の、とあるページを見せてきた。


「男嫌いで彼氏作る気ない人の発言とは思わないっすね」


「それはそれ、これはこれ。相手がいなきゃ、そりゃあ結婚式とは無縁だけど? けどいつか私も着てみたいって思うのとは別だと思わない?」


「その憧れが実現するよう男嫌い治してください。んでちゃんと彼氏作ってください。あ、結婚前提なら相手選びは慎重なほうがいいですかね」


「まあ、大丈夫大丈夫」


「大丈夫の意味がわからないっすけど。んで確かにドレスはまあ見てて綺麗だなあとは思うんすけど、俺は和婚がいいって思ってるんであんま興味が」


「……、マジ?」


「いや嘘ついても」


「和婚、和婚かー。確かに着物も綺麗だけどさー、なんかイメージし辛いなあ」


「これ、去年和婚で式挙げた親戚の姉さんの、披露宴の動画と写真っす」


 センパイにスマホを渡し、いくつかの動画と写真を見せた。


「……綺麗。華やかなんだけど、厳かな感じが凄い綺麗」


「流石に写真は撮りませんでしたけど、神前式もホテル内でやりました。俺も式って教会で愛を誓ってブーケ投げるってイメージでしたけど、かなり価値観変わりましたね。白無垢の姉さん綺麗だったし。あ、でも式始まる前に撮らせてもらった白無垢姿の姉さんの写真ありますよ」


「凄い綺麗……。え、なに、えっ、ほんと綺麗」


「もし俺が結婚する事になったら、まず相手には和婚が良いって希望は出しますね。まあ結婚式って女性の憧れってのはなんとなくわかってますから、洋婚がいいって言われたら折れますが」


「あ、披露宴だと洋風のドレスにもお色気直しするんだ」


「逆に洋婚だと和服にはなりませんからね。披露宴的には和洋どっちも着れるからちょっとお得ですよ」


「わかった、考えておく」


「え、何を? 和か洋か以前にいいから男嫌い直して? 結婚相手探して?」


「大丈夫大丈夫」


「だからその自信は――、あ、いや男嫌いさえ直せばセンパイならすぐ彼氏作れそうですもんね」


「いやそういう意味じゃないけど。ところで、この親戚のお姉さんと、仲いいの?」


「結構良かったと思います。五つ離れてますけど、遠すぎず近すぎずって感じの、たまに会う面倒見のいい姉さんって人でした。ちょっとがさつでしたけど」


「え、五つ違い? てことは二十歳前半で結婚?」


「大学卒業して就職先での仕事がちょっと落ち着いたところで、同い年の婚約者とささっと結婚してましたね。姉さんの行動力は異常なんで」


「へ、へえ……。ところで、わりと歳の近い親戚の人に恋心とか、抱いたりしなかった?」


「すんません、質問の意味がわからないです。歳が近かったら恋心抱くっていう理屈がわかないっす」


「いやほら憧れとか、そういうのさ」


「恋愛小説か漫画の読みすぎじゃないですか。確かに会った時は面倒見てもらってましたが、むしろ姉弟の関係ですよ。姉に恋する弟がいるのはフィクションだけです」


「キミのその、現実と空想をスパっと分けてるのがむしろキミの鈍感さを現している気がする」


「あっ、もしかしてセンパイも親戚に恋心抱いていた時期がありましたーってやつです? 前に『一回ぐらい恋愛経験ある』って言ってましたけど、これに関係してます」


「全然関係ない。ごめん忘れて」


「おやおやー、急にぶっきらぼうになりましたね? 図星? 図星ですか?」


「まったく関係ないから。『私の初恋』を茶化さないで」


「……あ、すいません。ちょっと調子乗りました」


「侘び、はよ」


「えっと――」


「奢りましょうかでごまかすのだめ。頬、キス、はよ」


「なんかあれば頬にキスしてますけど、付き合ってない俺らがこんな事してていいんすかね。なんか貞操観念が」


「うっさい。早く」


「うっす」



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