第32話 知らない味、好きな味

「お弁当、作ってきちゃった」


「珍しいっすね。学食も中庭も混んでるし、いつも通り屋上っすかね。購買で弁当買ってくるんで先に行っててください。あ、なんか飲み物買ってきます?」


「いやいやいや。キミのためのお弁当だから。私の分も作ってきたけど。飲み物は水筒に紅茶いれてきたし、コップも二つ用意してるし」


「じゃあちょっと割り箸買ってきますね」


「こらこらこら。ちゃんと二膳用意してるから」


「貴様誰だ、センパイの偽者か!?」


「おいおいおい。ってそんなボケあいはいいから。キミの料理の腕は知ってるから、キミから見て私の料理の腕ってどうなのかなって思って作ってみた。採点よろしくね」


「そういうことなら」




「はい、あーん」


「やっぱ箸一膳じゃねえか!!」


「ふふふ、私を侮ったね」


「うるせえ!」


 箸で運ばれた卵焼きを手で奪って口に放り込んだ。

 少ししょっぱい。けど出汁はきちんと入っている。

 うちの作る甘い卵焼きとはまた違う、これこれで美味しいと思える卵焼きだった。


「うまいっす。うち、基本的に甘いのがメインですけど、しょっぱい卵焼きもいいっすね」


「ありがと。卵焼きって甘い派としょっぱい派で別れるイメージだけど、キミにそう言われると自信がつく」


「あえて助言するなら、最後に醤油をほんの少し垂らすと軽く焦げ目が出来て見た目が良くなるのと風味がよくなります」


「きちんとアドバイスくれるのがキミらしい」


「褒めて欲しいだけなら、感想なんて聞かないで『美味しい?』って聞いてくるでしょ。てかセンパイはただ褒められても嬉しくないでしょ」


「うん、そうだね。でも普通に褒められても嬉しいからね? キミみたいに捻くれてないから」


「唐揚げは……、これ冷凍食品でしょ」


「バレた?」


「なんでバレないと思った。ちゃんと揚げたならこんな風になりません。んで弁当を作るなら朝か前の晩か。一日で揚げた唐揚げがこんなシナシナになるかよ」


「耳が痛い。こう、ボリュームが少ないかなってとりあえず詰めたやつなんだよね」


「おすすめはウィンナーです。簡単に作れる肉っぽいおかずです。茹でるか炒めるかでいいんで。余裕があればタコさんウィンナーにして見た目を良くするのもありですね」


「タコさんウィンナーって結構重要なんだね」


「あとは――」


 普段自分だと作らない、サンドウィッチを口にする。

 ふんわりとした食パン。中身はツナマヨ。

 サンドウィッチをお弁当にするのは、思いの他手間なんだよな。

 米なら冷めたのを詰めるだけでいいが、サンドウィッチは当然作る手間がかかる。


「うまいっす。ツナとマヨネーズの配分がきちんとしてる。ツナもツナ缶からきちんと余分な油を取ってるし。タマゴもゆで卵をただ潰しただけじゃなくて、マヨネーズと塩、胡椒の配分が絶妙です」


「おお、べた褒めだね」


「すんません、あまり作らないんで。褒める事ぐらいしかできないっす。ただ、凄く美味しいです。センパイ、いいお嫁さんになりますね」


「ンッッッ!! そ、そうじゃなくて! いや嬉しいけど、どうよ、私だって料理ぐらいできるから!」


「ん? 別にセンパイが料理得意でも驚かないっすよ? 下手でも『実はポンコツ』って思うだけで、わりとセンパイはなんでもできるって思ってますから」


「ンッッッッッッ!!!」


「痛い、痛い! 箸で突っつかないで! 品がない!」

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