第30話 好きになるって、多分こういう事だと思う
私は男が嫌いだ。
向けられる視線に品がない。
体全身なめ回すようなその視線が怖い。
別に私は極端にコミュニケーションが疎いわけではない。
友人は多い、ただし女の子だけだけど。
私は可愛いとか美人とか言われる事が多い。
それは別に嫌いじゃないし、私もそうありたいと思ってる。
化粧は好きではないけど、毎日のスキンケアはなるべく欠かさないようにしている。
学校に行く時も、ブラウスとカーディガンと、あとネクタイは学校指定外のものを身につけている。
私が、これは可愛いと思ったからだ。
決して、誰かに褒められたいからじゃない。
私が、私はこうなりたいと思ったから身に着けているだけだ。
ある日の予備校帰りに、見知らぬ男数人に声をかけられた。
軽薄で、頭悪そうで、品がなくて、ダサい。
いわゆるナンパだ。断っても断っても諦めてくれない。
そして、腕を掴まれ強引に連れ込まれそうになった瞬間、私は察してしまった。
私、怖い。もう……
「だっせえ事してんじゃねえぞクソが」
彼が、私の腕を掴んでいたクソ男を一瞬で吹き飛ばしていた。
恐怖心で何が起きたかさっぱりだけど、その彼はポケットに手を突っ込んだまま、その獰猛な目を男たちに向けていた。
「見てわかんねえのか。その子すげえ怖がってんだろ。何してんだよ。何か言えよ、なあおい」
彼はそう言いつつも、蹴り飛ばした男を何度も踏みつけていた。
既に身動きが取れない人間にそこまで追い討ちができるものなのだろうか。
「なんか言えつってんだろ。怖がってなんも言葉でない女子に、お前らはこうやって暴力ふるってたよなあ!? おい、なんか言えよ。このまま一年ぐらい病院に放り込ませるぞ」
「た、助けて……!!」
「だってさ。おい誰かこいつ助けてやれよ。その子は一人だから助けてって言っても誰も助けてもらえなかったかもなあ? でもお前らは違うだろ? ほら、お友達が助けてって言ってるぞ? なあ? どうすんだよ」
「な……舐めんなよ!!」
「はいそうやってなんかあればすぐ刃物とか出す。ばーか」
彼はそういうと、蹴り続けていた私の腕を掴んでいた男を思いっきり蹴り飛ばした。
明らかに気を失っている。
そして彼はナイフを持った男に対峙し、その手を簡単に蹴り付けた。
その衝撃でナイフを手放したのを確認したのか、彼はナイフ男の懐に入り体を思いっきり殴りつけていた。
さっきまで両手はポケットに入れたままだったのに。
「次」
ナイフ男も失神したのを確認した後、カンフー映画のように片手でちょいちょいと煽っていた。
「もしかして、こいつ例の……!?」
「逃げろ!!」
「怪我ないっすか? って、ないわけないっすよね。心のケアは俺にはできないんで、まあこれ、どうぞ」
ちょっとぬるくなっているペットボトルの紅茶をくれた。
「あの! その……!」
私がちゃんとお礼を言う前に彼は手を振りながら立ち去って行った。
あれから少しの情報を元に彼を調べた。
同じ高校の生徒なのは制服でわかった。
そして180cmはある長身。そして腕っ節が強い。
わりと簡単に彼を見つける事が出来た。
翠巒高校一年 『欅 颯』
「ねえキミ、ちょっといいかな」
「……あんた誰っすか」
なんとなくわかってた。
私の事なんて覚えてないって。
「二年 『橘 桜』 今後ともよろしくね」
男は嫌い。
だけど、あの時のキミは凄くかっこよかった。
だからこれはきっと恋の始まりだったんだって。
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