第23話 オムライスとは

 オムライス。

 それは日本における洋食の完成系の一つだ。


「半熟」


「いいや完熟で包むね」


 令和の現在、二つの勢力に分かれている。

 一つは最近流行の、半熟オムレツをチキンライスに乗せる派。

 一つはきちんとオムレツでチキンライスを包む派。


 今、俺とセンパイのバトルが始まる。




「私、客人。私、半熟派」


「うっす」


 完全なる敗北だ。ゲストには敵わない。


「つか、俺その半熟オムライス作った事ないんすけど、味に保障はしませんよ?」


「いいの。いいから」


 まあ、そういうなら。

 作る前にスマホで作り方を読み、それっぽく作ってみた。




「はい、どうぞ」


「……思ってたのと違う」


「え、すんません。いや保障しないとは言ったけど、そんなに酷かったです?」


「逆!! 完璧じゃん!! オムレツにスプーンさしたら半熟卵がとろっと広がってチキンライス包むの!!! 完璧すきじゃない!? ねえ、なんで!!??」


「いや、レシピどおり作ったら、普通こうなるでしょ」


「キミのそういうところ……!! 好きだけど嫌い!!!」




 昼飯を食った後、センパイとシアタールームで映画を見る。

 今回はセンパイのおすすめ。


 ローマの休日

 アルジャーノンに花束を

 サウンドオブザミュージック


 コテコテの名作ばかりだった。

 しかし、いつ見てもいいなあ。

 最高。名作は朽ちない。不朽。もっと世間に広まれ。


「アルジャーノンって、本では読んだことあるけど、映画も凄いね」


「凄いっす。てか作品自体が凄いんで」


「キミ、実は文学少年?」


「面白いものはなんでも好きっす。面白い。それだけがすべてっす」


「ときかけも半分泣きながら見てたもんね」


「面白いは正義っすから。映画を前に、我慢とかしないっす。面白いにも色々あるけど、泣きたくなるほど感動したら泣きます。んでここは俺ん家です。周りに見られるわけでもないし我慢する意味がないです」


「……私の前でも?」


「もうセンパイの前で、個人的な恥ずかしい過去で泣いてるんで。我慢する意味がないっす」


「素直だねえ。その素直さ、普段からできないのさ」


「普段から素直っすよ?」


「ほんとに? 他に我慢してたり、隠してたりしてない?」


「センパイが彼女って噂を我慢してます。どうか、どうかこの嘘をなんとか否定してください!!」


「ばーか。嫌に決まってるでしょ。ほんと、ほんとばーか」


「センパイも変な意地張らないで、ちゃんと彼氏作ってぐはっ!」


 センパイの容赦ない肘鉄が俺の脇腹を穿った。

 内臓が! レバーが!

 喧嘩の時は力んでるから傷みはない程度の威力だけれど、無防備に脱力している今は凄く効く。


「次、何見るの」


「今日はセンパイが選んだ映画って話じゃ」


「うっさい。キミが決めて!!」


「秒速5センチメートル でも見ます?」


「喧嘩売ってるの?」


「えー。じゃあ耳をすませばは?」


「あんま変わらないけど、耳すばのほうがマシ。てかほんっとそのチョイス、無自覚だから余計ムカってくる」


「なんでっすか。こう、恋愛におけるシーソーゲーム的な」


「うっさい。恋愛のれの字も知らないくせに!!」

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