第21話 センパイに告白したければ俺を倒していけ

「俺は橘先輩に告白する! だから、俺はあんたを倒す!」


「いや俺は常々言ってるんだ。『俺とセンパイは付き合ってない』って。これ事実、オッケ?」


 俺は見知らぬ1年生に宣戦布告を受けたので、さらりとかわす。

 事実じゃないので、彼は彼で頑張って欲しい。

 成功してくれれば俺がフリーだって証明される。


「図書館で一緒に読書して、学食であーんとかしたりして、それでもって言うのかあんたは!」


 おうふ。痛いところを。

 全部センパイの悪ふざけなんだが、周りから見たらそりゃ仕方ないか。


「てことで、体育祭の武術大会で絶対にあんたを倒す」


「出るとは言ってないけど!?」


「去年のチャンピオンが欠席とかありえます?」


「そだねー。結局今年も出させられるねー。てか俺に勝ったからってセンパイにオッケー貰えるわけじゃねえって理解してる?」


「橘先輩はあんたみたいな強い男が好きだって言われてる。だからあんたより強いと証明できればきっと……」


「誰だよそんな話してんの」


「最近、橘先輩に告白して玉砕した奴がそう言われたって」


「おい」




 うちの体育祭はちょっと変わっている。

 いや一個だけなんだが。

 武術大会が何故か開催されるのだ。

 いや普通陸上競技だけじゃない?

 しかもうちの学校、武術系の部活ないんだよ?



 そんなある日の放課後のホームルームの話。


「んじゃ、今年の体育祭の出場者だけど、欅は武術大会は確定して他――」


「あの拒否権は」


「あるわけないだろチャンピオン」


「いやでも、そこはサプライズというか、誰でもチャンスがあるというか」


「ない。以上。話は戻して100m走は……」


 はい、今年も体育祭は武術大会だそうです。

 楽しくもなんともないです。

 学校行事は好きだが、これだけは嫌いだよ。




「責任取ってください。おかげで今年も武術大会に出る事になったし、知らん後輩から宣戦布告されました」


センパイを屋上に呼び出し愚痴に愚痴った。


「後者はまだしも前者は私関係なくない?」


「うるさい、時々はセンパイは先輩らしく後輩の愚痴を聞いてください」


「いや結構ちゃんと先輩してるつもりだけど。まあ、これあげるから」


「あざっす」


 飲みかけのレモンティを貰い、喉を潤す。

 少し興奮してて喉が渇いていたところだった。


「去年の大会見たけど、キミ凄かったじゃん。今年も負けるとは思わないんだけど」


「勝ち負けじゃないっす。ていうか相手が弱いだけです。俺は! ちゃんと! 普通の体育祭がやりたいの!! パン食い競争とかでもいい!!」


「諦めたら?」


「試合終了だよ!!」


「まあがんばってね。応援してるよ。キミが強いの、きっとみんな知ってるけどさ。戦って褒められてきなよ」




 そんな俺の些細な抵抗もむなしく、体育祭本番を迎えた。


「一回戦、東側。欅颯ー!! 我が校の誇るクールビューティ橘桜という彼女が居ながら『自己アピールに彼女募集』と書くクソったれだー!!」


 めっちゃブーイングを受けた。

 一応俺去年のチャンピオンだよ? なんでヒール扱い?

 うっせえよ。



 一回戦の相手は三年だ。

 まあ、隙だらけ。体格はややがっちりとしているが、見様見真似の構えからして素人だ。

 まず軸がぶれている。重心がおぼつかない。構え以前の問題だ。


 ゴングとともにローキックで体勢を崩し、そのまま接近、逆側にミドルを入れる。


 蹴りの間合いから拳の間合いへ。

 隙だらけの構えだから、カバー出来ていていない水月に下突きを入れる。

 当然ここは急所だ。

 いくら体を強張らせていても痛みは響く。ましてや脱力状態ならなおさら。


 こうして一回戦を勝利し、そのまま勝ち進んで行った。

 そして決勝戦。




「待ってましたよ、欅先輩」


「俺は待ってないし、正直勘弁して欲しい」


「じゃあ棄権すればよかった。わざと負けても良かった。でも先輩はここにいる」


「くっちゃべってねえで、さっさとはじめるぞ」


 ゴングが鳴る。

 なるほど、相手はボクサータイプか。

 蹴りがないと言い切るのは早計だが、構えが拳をぶつけるために最適化された構えだ。

 恐らく経験者。あまり舐めてると痛い目をみそうだ。


 すっと、俺は絵に描いたような構えを少し崩す。

 重心は深く、右手は少し狭く顔を覆うようにする。

 左手は拳一つ程残す程度に伸ばした。


 お互い、間合いを計りあったあと、しばらくお見合いをする。

 そして動いたのは後輩君だった。

 見てから俺はすぐに左拳を突く。


「くっ!」


 ボクサーの動きは早い。

 だから俺の得意な寸勁を最速で打てる、俺の一番得意な構えにしている。

 腰の動きと重心移動で、たった拳一つ分の幅で最大の威力を引き出す。


 少し怯んだところを見逃さない。

 向こうから攻めて来たからアウトボクサーではないと踏み、まずは前蹴り、そしてその足を一歩目として間合いを詰め回し蹴り、そのまま後ろ蹴りを繰り出す。

 合計三歩。足技で相手の動きを止めた上でインファイトの間合いに入る。


 場合によっては相手の間合いだ。

 しかし牽制とはいえ合計四回の攻撃を相手に与えている分、体力にはこちらに分がある。


 構えていてもフォローできない鎖骨を狙いって突く。

 少し崩れてきたガードを身逃さず、脇腹の内臓を穿つ。

 そして最後に水月に全体重を乗せた膝を入れる。


 すぐに試合終了のゴングがなった。

 ……むなしい勝利だ。


「2連覇おめでとうございますクソ野郎さん。一言、特に橘さんに」


 おいお前もリングに沈めたろうか。


「がんばれって煽ったのセンパイなんで、今度喫茶店でパンケーキ奢ってください!!」


「ンッッッ!! ばーか!! 奢るけど、ばーか!!!!」

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