第20話 モテるのはそれはそれで辛いらしい

「センパイってモテますよね」


「ソースはどこよ。なんで決め付けるの?」


「いやなんとなくっていうか、見た目だけでも十分男にチヤホヤされそうだなあって」


「あー、叩いていい? そういう風に見られるの嫌い」


「ってことは事実なんだ」


「……、まあ最近は落ち着いてきたけど、告白される事は、少なくはなかったけど」


「モテたことがない身としては羨ましいと思うんすけど、本人はなんか困るっていうか、嫌な事多いらしいっすね。センパイもそんな感じっす」


「ソース」


「醤油でいいっすか?」


「……根拠」


「俺の友人。日ごろ爽やかイケメンしておいて、俺と話すたびに『女うぜー』とか言うぐらいなんで」


「まあ、私は男に媚売ってるつもりないけど、何故か告白される事は多いよ。全部断ってるし、そもそも普段から男子と話すことすらないけど」


「人から好かれるって、そんなに嫌な事なんですか? 嫌われるより全然良いと思うんですが。俺にはモテる人の、相手を拒絶する気持ちがわからんっす」


「私の考えがすべてではないし、きっと私が捻くれてるだけだから参考にならないかもしれないけど。好かれる、好意って一律じゃないんだよ。お友達として、クラスメイトして、そういうのならいいかもしれない。それはきっと嫌われるより好かれるほうがいいかもしれない。けど恋愛感情になると、話は別。ろくに知らない異性に恋愛感情を抱かれる気持ち悪さ、耐え難い」


「センパイも男嫌いっていうけど、友人とかクラスメイトとして、なら平気なんすね」


「いんや? 結局そこで適切な距離を置いてくれるならいいけど、それを切欠に結局恋だなんだの関係を迫られるから、絶対に話したくない」


「重症だ。男が誰しもセンパイみたいな美人に仲良くされたからってちょろっと落ちると思うな」


「キミの思い込みと、現実に起きてる事、どっちが信憑性がある?」


「……センパイっすね。いやーこの男殺し」


「今日この後、いつもの喫茶店ね。もちろんキミの奢り」


「うっす、サーセン。ついでにケーキも奢るんで質問続けていいっすか?」


「ショコラケーキね。で、何?」


「どんな風に断ってるんす? その嫌な告白に」


「じゃあ折角だし実践してあげよう。私に告白してごらん」


「好きです、付き合ってください」


「はいよろこんで」


「おい一言でオッケー出してるじゃねえか! どうした男嫌い設定!?」


「あ、ごめんごめん。キミ相手だからつい」


「はあ!? 俺ならこんなボキャブラリーのない普通な告白しねえよ!」


「じゃあ、キミらしくどうぞ」


 俺は少し考え、俺らしい告白……ウィットに富んだジョークを交えた小粋な口説き文句を考えた。


「センパイとの子供は二人は欲しい!」


 あ、やっべ、色々ネタに走りすぎて告白の部分まるっと抜けた。

 ていうかただのキモくてヤバい発言だぞ。


「すんません、ちょっとやり直し――」


「そうだね、できれば男の子と女の子両方欲しいよね。でもこのご時勢、育児はお金かかるよ? 絶対に子供に奨学金を背負わせないし、授業料安い国立狙えなんて言わないから。自分の子の将来ぐらい、好きにさせたいからね。だからって仕事が忙しいって理由で子供放置もしたくないし。お互い頑張ろうね」


「ノリノリかよ。いや違うんす。ていうか俺の告白はどうでもいいし。普段どう断っているかが知りたいだけっす」


「じゃあいつも私に告白してくるウザい奴になりきってよ」


「……ういーっす、俺佐藤! 君のクラスメイトの鈴木の親友なわけ。どう、俺と付き合わない!?」


「あんた誰。嫌」


「おうふ、キレッキレ」


「まあこんな感じに断ってるから、ここ1年ぐらいは告白してくる馬鹿はいなくなったよ」


「あ、だから俺が彼氏って言われてても否定する理由ないんすね」


「……まあ、うん。それでいいよ」




「で、私は思うの。男ってちょっと優しくされたらなんで告白するとか付き合うとか考えるんだろうね」


喫茶店で俺はオレンジペコとフルーツタルトを、センパイはアールグレイとショコラケーキを注文した。


「そりゃ彼女が欲しいからでしょ。男の彼女欲しい願望を舐めないでいただきたい」


「キミの言ってる事、時々矛盾してるけど大丈夫」


「いや俺ですら彼女欲しいって思うんすよ? ただ節度は守っているだけで。けど形振り構わない連中はきっといっぱいいて、そいつらがきっとセンパイの目についてるってところっすかね」


「キミはさ、誰か気になる子とか居ないの? 言ってたよね、恋がしたいって。でも恋は一人じゃできないんだよ?」


「……確かに」


「え、今気づくの。ああもう、前途多難だよ」

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