第18話 続・俺とセンパイのいつも通りの放課後

「はいこれ、リンゴジュース」


「あざっす。いくらでした」


「先週のお泊りのお礼だからいいよ」


 センパイが俺の家に泊まって、その週の月曜。

 当たり前のように放課後、俺とセンパイは屋上で待ち合わせた。

 お互い、表面上は普通だけど、どこか違和感。

 センパイ……ではなく俺がだ。


「ありがとね、久しぶりに楽しい週末だった」


「こっちこそ、久しぶりに親以外とすごしました」


「あれ、親友の子は?」


「あいつ部活で忙しいんで」


「そっか。じゃあよかった」


 そういうと、お互いむかつくほどの快晴を見上げた。




「ねえ『警察犬』クン」


「やめて、ひっぱたくぞ」


「いや良いけど、その代わり答えて。なんでそう呼ばれてるの?」


「どうしても言わないといけないっすか」


「聞きたい。叩かれても、嫌われても」


「はあ……。まあいいっすけど」




 俺が中学の時、俺の地元は荒れていた。

 主にカラーギャングを気取った中坊が原因だ。

 俺の南中は「南のブラック」「南のホワイト」で分かれていた。

 もうその時点で痛い。


 一方、北中は「北のシュバルツ」「北のヴァイス」と二分されていた。

 色だだ被りじゃねーか。


 まあ実質、4つの勢力が暴れまわっていたわけだ。



 俺はというと、南中所属だが、そんなダサい連中と組む気はなかった。

 しかし人は流されるもの。誰もがどこかのチームに所属する事となった。

 まだ、それならいい。


 これは非行だ。場合によっては刑事事件だ。

 それを理解する奴も、俺と同じくどのチームにも所属しない。

 となると、他のチームに奪われないためか、それとも見せしめか。

 チームに所属しないまともな奴が、クッソ頭のおかしい不良から虐げられる。




 それが我慢できなかった。




「おいなんか言えよ、南のなんとかさん」


「ンンンッ」


 喋れるわけもない。床に寝転んだ相手の口を塞ぎ、みぞおちに膝を押し込んでいる。

 あとは空いている右手をいつでも振り下ろせるようにする。


 周囲には取り巻きがたくさんいたが、一歩でも動けばリーダーをこのまま病院送りにすると脅してある。





「よっ。ブラックをよく倒してくれた。ホワイトはお前を」


 言葉を発しきる前にそいつの股間を蹴り上げた。

 悶絶する間にミドルキックで相手のあばらを折るつもりで蹴りつける。

 まあ人間の骨は意外と頑丈だ。

 ちょっと痛んでいる間に前蹴りで水月、つまり鳩尾に前蹴りを食らわす。

 膝を付いたところで隙だらけのあごに膝蹴りを食らわす。



 まさか俺に声をかけてきたのが南のホワイトのリーダーだったとは思わなかったが、こうして実質南中のカラーギャングもどきは解散となった。




 当然、そうなれば北中が調子に乗る。

 同じ中学ならある程度動向はわかるが、他校だと厳しい。


「任せろよ。北中にだって、カラーギャングに染まってないまともな奴いるからさ!」


 そう友人が言うと、北中の一部の奴らが色々と情報をくれた。

 あいつらがどこで何をするか。

 全部筒抜けだった。




「黒? 白? どっちでもいいけどリーダーは?」


「い、言うかよ」


「じゃあ病院に行け」




 手当たり次第、連中を潰しまわる。

 いずれリーダーを潰せると信じて。




 北中のカラーギャングが何をしても、いつでも現れる『警察犬』

 それが中学時代の俺だ。

 毎日しらみ潰しに不良を締めてりゃ、有名にもなるわけで。

 付いた二つ名が『南中の警察犬』

 ダサいし、二度と呼ばれたくない。



 結果として、1年ちょとで蔓延っていたカラーギャングもどきの抗争は消えた。

 称える奴もいるし、俺の殺傷沙汰も学校は黙認した。

 だが、俺はなんとも……いやむしろ違和感を覚えた。

 相手が悪いから、俺は暴力を振るっていいのか?

 これは本当に誰かを助けるためにやったことなのか?

 ただ俺が暴力を振るいたかっただけでは?




 逃げ出したい一身で、俺は地元から遠くて、そして屈指の市立名門の翠巒高校への進学を決めた。

 聞けば、南中初の翠巒進学らしい。

 ありがたいことだ。




 もう俺は、あんな事はしたくない。




「キミはさ、もっと自分を褒めてあげようよ」


そういうとセンパイは俺の頭を優しく撫でてくれた。


「暴力はよくない。そうだね、まあ普通はそう言うけどさ。じゃあキミは説法で誰も彼も説き伏せる聖人なの? 違うよね? むしろそっちのほうが難しいよね。じゃあ、暴力なら? 私が同じ立場なら、きっと何もしない。だって私が暴力に訴えても何もならないから。けどキミは違う。暴力で、色んな人を救った。暴力イコール悪って思ってるのなら納得はしづらいけど、でもキミはたくさんの人を助けた。誇って欲しい。助けられた人が、キミをどう思っているかを。嫌悪する? まさか。絶対に尊敬してる。キミは、キミができることで、みんなを救ったんだ。誇れ。誇らないと罰が当たる」


 そしてセンパイはゆっくりを俺を抱きしめてくれた。

 暖かくて優しくて、つい目から涙が出てしまう。


「キミはキミが出来る限りで、正しい事をした。誇りさえすれ、後ろめたく思う必要はないよ」


 俺は憑き物が落ちたように泣き叫んだ。

 ごめん、ありがとう、がんばるから。

 俺を助けてくれた奴ら全員に詫びるように泣き続けた。

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