第14話 真・自称硬派君の華麗なる休日

「ごめん待った!?」


「俺こそすんません、中央口だと待ち合わせし辛いかなって思って南改札にしたんすけど、むしろ迷惑でしたね」


 JR横浜駅は改札口がいくつもある。

 そして中央北口と中央南口は実質同じような場所で、土曜なんかは人混みに溢れてしまう。

 だから乗り換えで人混みも多少はあれど、南改札ならばと思って提案したが逆効果だった。


「私もちゃんと調べるべきだった。ともかく改札出ればいいんじゃない?って勝手に思ってて、適当にいつもの改札でちゃった」


 俺が駅に着くよりちょっと前、センパイから「ごめん迷った。南口どこ!?」とSNSメッセージが届いた。

 約束の10分以上前だし「落ち着いてください、ブルーラインとか相鉄線があるところっす」と返したら、「どこ!?」と返されてしまった。

 俺が下手に教えるよりもスマホで調べてもらったほうがいいんで位置のURLを送って、そして今に至る。


「うちが相鉄線沿いだからって、着づらい場所指定してすんません」


「悪いの私のほうだから、もうやめよ? キミは絶対悪くない」


「……あざっす」


 誰が悪いとかそんな話していても仕方ない。

 俺も指定した場所が悪いし、センパイも日本のサグラダファミリアで適当に改札出るのも悪い。

 両成敗ってことで。




 ちょっと泣きそうになってるセンパイを宥めながら星川駅に案内する。

 俺の家はここから5分……今のちょっと弱ってるセンパイ連れてだと10分ぐらい位置にある。

 語彙力のない俺が説明すると閑静なベッドタウン、というべきか。

 どこもかしこもマンションだらけ。

 公園や大規模なスーパーはあるけど、人が住むだけ、といった場所だ。

  俺の家もその一角のマンションだ。


「ただいま」


「おかえりー、ちょっと遅かったね。昼ごはんはよはよ」


「俺の気分は、そうだな、焼き飯だ。チャーハンじゃないぞ、焼き飯だぞ」


 親父とお袋がいつも通りに出迎えてくれた。

 個人的にだが、俺は幸せな家庭って奴に育てられていると思う。

 確かに平日はいつも誰もいない家に、なんとなく「ただいま」と言っている。

 だが休日は親父もお袋も「おかえり」と言ってくれる。

  本当に独りぼっちなら、そんなことありえないと思う。

 

「あ、あのっ! おじゃましましゅ!!」


センパイは盛大に噛んだ。


「ンッッ!! 今日はお休みのところ、おじゃみゃ、ンッ!!、お邪魔します!!」


「そんなかしこまらないでいいのよ。どうせ私たちも家でごろごろしてるだけですもんね」


「強いて言うなら息子の昼飯が、きっといつもより豪華なはずとワクワクしている」


「えっ、焼き飯が良いって言ったじゃねーか」


「ん? 焼き飯しか作らないのか? 馬鹿か? せっかく彼女を家に呼んで手抜きするのか? クソか?」


「彼女じゃねーし。言われなくても焼き飯以外も作るわ。けど豪華にはならねえからな」


「あの、その……」


「桜ちゃんはなーにも気にしなくていいから。いつものことだからね。それより、おばさんとお話しましょ? なんだかんだでちゃんとお昼ご飯作ったら12時過ぎると思うし」




 センパイはお袋と楽しそうに話をしている。時々親父が横槍をいれているようだが冷たくあしらわれている。

 そんな3人を横目に、ささっと昼飯の用意をする。


 焼き飯とチャーハンの違いは、無いようで有る。

 焼き飯は文字通り具材と白飯を混ぜて焼く、というか炒める。

 チャーハンはきちんと手順を踏んで、具となじませるように、そして素早く調理をする必要がある。

 中華鍋を振るい空気となじませ、米の粒と卵をコーティングするほうが味としては美味しいが、チャーハンと違い焼き飯はむしろしないほうがいい。

  雑に具を混ぜて炒めるだけ、そのほうがむしろ好みの人間も少なくないのではないだろうか。

 主に親父の話なんだが。




「ほい、お待たせ」


  親父ご要望の焼き飯と、それだけでは味気ないので中華スープ、餃子と春雨サラダを用意した。


「えっ、すごっ。えっ!?」


「「いただきまーす」」


 センパイがなんでうろたえてるかわからんが、親父とお袋は手を合わせてレンゲを手に焼き飯をほうばった。


「これ、これだよ。この雑なのに美味いのな。さすが俺の息子!」


「あらあら、料理できないくせにドヤ顔しないで恥ずかしい。今日は桜ちゃんもいるのよ」


「どうよ桜! 俺の息子の料理は!!」


「えっと、その、凄く美味しいし、凄いです」


 凄い二回も言う程かよ。


「センパイ、俺の両親ちょっと変わってるけど多分普通の人なんで。借りてきた猫みたいなのやめてください」


「……あとで、二人になった時、話すから。今はそっとしておいて」


 どうやらセンパイのご機嫌を損ねてしまったらしい。

 心当たりは一切ないが、念のため謝る覚悟をしておくか。


「いいのよ桜ちゃん。颯が悪いだけだから」


「ああ、颯が悪い」


「なんでやねん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る