第11話 大は小を兼ねるか

「キミはさ、女子の胸は大きいほうが好き? 小さいほうが好き?」


「え、セクハラっすか? 答えた瞬間案件っすよ」


「そんな意図ないし、世の中言うほど厳しくないから。それで、どうなの?」


「まず、なんで答えないとならんのか。答えて俺はセンパイからどう見られるのか。怖いことだらけで答えたくないです」


「まあ単なる好奇心だよ。男子ってどう思ってるのかなって」


「俺の意見聞いて、その好奇心が満たされるんすか」


「もちろん。私、男嫌いだし。だからキミの意見がつまり男の総意」


「おかしいでしょ、色々と。そもそも俺はセンパイの嫌いな男だし。なんで俺の意見イコール男の認識みたいになるんすか」


「まあまあ、良いから素直に答えてごらん」


「乳に貴賎なし、としか。別にどっちでもいいっす」


「つまりキミは彼女欲しい欲しい言いながら、相手が巨乳だろうが貧乳だろうが誰でもいいと」


「いやむしろ褒めてくださいよ。ていうか乳のサイズで彼女選ぶとかクソすぎだろ。逆、逆だって」


「一応女子の私相手かもだけど、素直に答えてごらん?」


「だから素直に、どっちでも良いんですって。そもそもなんでそんな頭悪そうな質問するんすか」


「いやたまたまクラスの男子の会話が耳に入ってさ。彼女にするなら胸のサイズは、みたいな」


「思春期特有の猥談というか、下ネタで盛り上がっちゃったガッカリ話っすね」


「私は男子の意見とかどうでもいいけど、キミはどうなのかなって。そもそもそういう話興味あるの?」


「だからどっちでもいいですって。つか男子の総意が聞きたいならちゃんと母数増やしてください。俺の好みイコール男の好みとか、今日ちょっとテンション上がって語り合った連中が可哀想なんで」


「だからどうでもいい男子の意見なんてどうでもいいの。てかそんなスタンスだとキミ、こういう話を同性としないタイプ?」


「いや機会があればしますよ。例えば修学旅行とか」


「へえ、キミも学校行事は楽しむんだ。ちなみにお土産くれなかったの忘れてないから、生八橋食べたかった」


「京都イコール八橋はどうなんすか。むしろ八橋ぐらい有名ならどこでも買えるでしょ」


「まあ変わりに今度スイーツ奢って貰うとして。その時どんな話したの?」


「いやあの時もクッソ高いパンケーキ奢ったでしょ、まだたかるの? 八橋の恨み強くないっすか?」


「その猥談的なの、お洒落な喫茶店で話したくないなら答えよ」


「まあ、同じ感じっすね。乳はでかいほうがいいか小さいほうがいいか。男って乳にそんな興味持てるんですね」


「その言い方だと、同じように『貴賎なし』とか言って場をしらけさせたと」


「男子高校生の熱意を侮らないで欲しい。巨乳派と貧乳派でわかれて、俺をどっちに所属させるかディスカッションが始まりましたからね」


「え、怖っ。そんなに男子って女子の胸って重要なの」


「らしいですね。あんま話したことないクラスメイトからガチの説得を受けました」


「それで、結局のところ?」


「『まあどっちもいいんじゃない? 好みはそれぞれだよね』って言っておきました。大小はあんま興味ないんで」


「じゃあ私の質問に対してはちょっと気を利かせて『大きい方がいいです』って言おうとか思わないの?」


「ああ、センパイの乳でかいっすもんね。ふざけた事言ってると揉むぞ」


「ん? いいよ?」


「は?」


 女性の乳房に対しての話題に対し、あまりまともに話をするつもりはないので、嘘は言わず適当にあしらっていた。

 できるならさっさと終わらせたかった。


 揉むぞ発言はもはやアウトでしかない。

 これで嫌われて、彼女じゃないと言ってもらえたら……ごめん、それは嘘だ。

 俺が思うにそういう性的に迫られて良い思いをする女性はいないと思う。

 そこまでして嫌われたいか、彼女を作るためにセンパイを傷つけていいか。


 我ながら、なんて失言をしたのか。

 俺が誰にどう思われても良い。

 けど、センパイが悲しんだり傷ついたりする発言は控えるべきだった。


「すんません、ちょっと勢いっていうか、冗談がすぎたっていうか――」


「言い訳はいいの。私の胸触って、巨乳派になりなさい」


 そうだね、センパイはそういう人ですよね。

 怖い思いをしたかもしれない、悲しかったり辛かったりしたかもしれない。

 けど俺に対してはこうやって、まるでお互いの軽口、みたいに接してくれる。

 その優しさを、どうして俺以外の男に向けられないのか。


「じゃあ折角なんで」


 俺はセンパイの乳……ではなくブラウスのボタンに手をかけようとする。


「え、ちょっ。なんで脱がそうとするのさ!?」


「揉むなら折角なんで布越しとか下着越しじゃなくて生のほうがいいんで」


「そ、それはなし! 流石になし!!」


「んじゃこの話はなかった事に」


「……、男って布越しでも触りたいって思わないの? じゃなきゃ痴漢とかないんじゃない?」


「あくまで俺の意見ですけど、時々満員電車で女性の乳を押し付けられる場面も少なからずあります。でも布、というか下着ですかね、固いのを押し付けられてもまったく嬉しくないんで」


 まあ男の大半はそれでも嬉しいらしい。

 だが俺はそうではない。

 そもそも乳にさほど興味がないし。


「……キミのそういう、遠まわしな優しさ、好きだけど嫌い」


「さて、なんの事ですかね」


 流石のセンパイも、服を脱がされるとは思ってなかっただろう。

 そして「揉んでも良い」という発言も撤回し辛いだろう。

 だから、まあ極端な要求をしてみた、ただそれだけ。


 いつもの冗談よりさらに嫌われたな。

 俺の不器用さを直さないと、誤解が解けても彼女ができそうにもない。


「今日は! ただちょっと私の覚悟が足りなかっただけだから!! 次はちゃんと触らせるから!!」


「え? は?」

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