第10話 真・たまには親友と遊ぶのも悪くない
純の部活がない日、奢りでカラオケをすることになった。
「んで、どうしたよ。とりあえず歌ってストレス発散?」
「それは後で。話を聞いて欲しい。ここなら絶対他の誰にも聞かれないからな」
確かにここなら完全防音、部屋には俺と純しかいない。
特にフードメニューも頼んでいないし、ドリンクはセルフのドリンクバーなんで店員が入室することもない。
「オンナ、コワイ」
「そのネタ引っ張るなあ。流行ってるの? センパイも似たようなこと言ってたよ」
「お前、なんかあると橘先輩の話に持っていくよな」
「いやちげーし。本題はそこじゃねーし」
「そうだな。すまね。まあ聞いてくれ。女が怖いことを」
「おう、どうした」
「こないださ、クラスの女子二人、同時に告白されたんだよ」
「ふーん」
「いやリアクション!」
「いやーモテる男は辛いっすねってしか感想がないし。自慢なの?ぐらいは言いたいぐらいだけど」
「まあよく聞け。たまたま同じ日、同じ場所とかそんな温い話じゃないんだ。『本当に二人同時に告白してきた』んだよ。『どっちと付き合うの!?』って」
「はあ」
「いやだからリアクション。よーく考えてごらんよ。正直、その二人はただのクラスメイトぐらいしか認識してねえのよ? それなのに『どっちと付き合うの!?」って。おかしいだろ、トラップすぎてやべえよ!! 怖いわ! 超怖いわ!! 一瞬『この子は大人しい感じで、この子は活発系だし、俺の好みどっちかな』って考えて『ん? おかしくね。選んだら付き合うことになるの? え?』って!!!」
「……怖ッ!!」
「だろ!? しかも二人とも仲良しだから、仮に振られても片方が付き合えれば『友人の彼氏が意中の人』みたいになるじゃん。自然と3人で遊びに行きません?とかなってもおかしくないだろ!?」
「確かに。明らかに策謀を感じるから、それぐらいの意図はあってもおかしくねえな」
「オンナ、コワイ」
「オンナ、コワイ」
「おい、颯は橘先輩がいるからいいだろ。怖い怖い言える立場か」
「うっせ、センパイとはそんな仲じゃねーって何度も言ってんだろ!!」
「それでも橘先輩はそんな卑怯な事しないだろ!?」
「いいや存在自体が卑怯だね。キスとかせがまれたしね。俺みたいな勘違いしない硬派な男じゃなきゃ冗談を本気にしてコロっとやられてるね」
「え、キス?」
「あ、やべ」
「あー、うんお幸せに」
「ちげーししてねーし実質未遂だし。んで、結局どうしたんだよトラップ告白は」
「普通に断った。いや普通かな? 『二人ともただのクラスメイトとしか思ってないんで』って突き放した。めっちゃ泣かれた。泣かした俺が悪いみたいな空気、超怖かった」
「おう、それはそれは」
「オンナ、コワイ。泣けばいいと思ってる」
「そりゃいくらなんでも偏見だろ。やり方は確かに汚いけど、でも振られて普通に悲しいだけだろ。そこは穿った考えすんな。フったからこそ、『オンナ、コワイ』って見るんじゃなくて、お前がその二人に言った通り『ただのクラスメイト』と思ってやれよ」
「なあ聞いて良い? お前なんでそんな男前なの?」
「硬派だからな」
「あ、否定しないんだ」
「自分に少しでも自信がないなら、彼女欲しいなんて言ってねえよ。センパイとの噂をラッキーとか思って堂々としてるわ!」
「マジ男前、惚れそう」
「惚れてもいいけど掘るのはやめろよ」
「俺もその気はないけど、颯みたいな男前を目指すよ」
「爽やかと男前揃ったら、さらに過酷なトラップ告白されそう」
「オンナ、コワイ」
なんだかんだと、純の愚痴を聞いてやり、それとなく励ましてやったところで純がフードメニューを適当に注文してくれた。
全部奢りだから儲けものだ。
「んじゃ歌うか?」
「いやせっかくだし一つ、いや一つで終わらないかもしれないけど颯に聞きたい事がある」
「なんぞ」
「彼女欲しいって言ってるんだから、橘先輩と本当に付き合うって選択肢ないの?」
「あるかないかと言えば、ない。というか、ありえない」
「……え、あんな仲よさそうなのになんで? そんなに嫌いなん?」
「ん? いや俺はセンパイの事は美人だし、でも結構可愛いところあるし、クールぶってるわりにポンコツだし、なんだかんだ俺の事構ってくれるし優しくしてくれるから、好きか嫌いかだと好き」
「じゃあなんで付き合わないのさ」
「噂が出始めた頃さ、センパイにも誤解を解くようお願いした時、結構辛辣にしてたんよ。センパイは俺に優しくしてくれたのにさ。んで、最近はなんだかんだ仲良くしてるっぽいけど、逆に調子乗ってふざけが過ぎた事とかもしててさ。こんな男が、あのセンパイに好かれると思うか? センパイはやっぱ優しいから俺の事嫌いにはなってくれないけど、好きにはなってもらえないよ」
「はい歌おうか。もう勝手に幸せになってな?」
この後、純と恋愛ソング縛りで熱唱した。
俺は普通に好きな人に振り向いて欲しい的な歌を。
純は鈍感な相手に振り向いて欲しい的な歌を。
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