第8話 たまには親友と遊ぶのも悪くない
「颯! 明日! 放課後! 空けておけ!!」
「先約ないからいいけど、純のそのテンションなんなの。野生児がやっと言語覚えた感あるんだけど」
「うるせえ。お前いつもいつも『あ、いやセンパイとの約束あるんで』って断るじゃねーか! それで橘先輩と付き合ってないとかよく言えるよな!」
「俺のポリシーは先着順。オーケー? 純はセンパイよりも俺へのアポが遅いんだよ」
「わかってるわ! だから今ここでお前の日程を抑えようとしてんだろ。わかれよ!」
「言い方! 普通に明日遊ぼうぜって言えばいいじゃねーか。なんでカタコトなんだよ」
「それだけ俺はお前と遊びたい。俺のこの情熱をわかって欲しかった」
「やめろ、見ろよクラスの雰囲気。ドン引き7割、男同士の禁断の愛みたいなの妄想してキャッキャしてる奴3割だぞ」
「俺は別に構わん!」
「気にしろ。あ、いやお前モテるもんな。んで俺と違って彼女無しって知れ渡ってるもんな、余裕だよな、はいはい」
「お前それマジで言ってる? 俺はまあ確かにそれなりに? モテるかもしれない。だがそれは女子から友人として好かれている程度で、橘先輩のような圧倒的美人に言い寄られたことは一度もない!」
「おいやめておけ、お前に告白した奴ブスでしたって捉えられるぞ」
「俺は構わん。お前のように噂のせいで告白されないと勘違いしている残念な子と同じぐらい、いっそ架空彼女作って興味ない女子からの告白から逃れたいという気持ちもあるんだよ。いっそこのままクズ路線でもいい」
「ほんとやめて? どうした? 正気?」
「オンナ、コワイ」
「わかった、わかったちゃんと話聞いてやる。今日じゃダメなんか? 俺、放課後誰にも誘われてないし」
「オレ、ブカツ。カエルコロ、モンゲン」
「頑張れ、バスケ部エース。明日ならいいんだな」
「明日はクールタイムってことで部活休みだからな。金は俺が出すから、俺の行きたいところ連れ回すから覚悟しろよ!」
「なんで遊びに覚悟がいるんだよ」
なんて事が昨日あり、純と放課後遊びに行くことになったんだが。
『喫茶店』
昼休みが終わる丁度その頃、ブルっとスマホが振動しメッセージ受信を知らせてきた。
センパイからだったが、今日の俺は先約がある。
『先約があるんで』
『私より大切な用事?』
え、なにこれ。
冗談だろうけど、こう、嫉妬する女感ぱねえ。
ふと純の「オンナ、コワイ」が脳裏に浮かんだ。
どうしよ、マジでセンパイが辛いなら……。いや純も相当まいってたしなあ。
『俺のポリシーが大事です。愚痴りたいなら夜電話ください』
『やだ。会いたい』
オンナ、コワイ。
え、何これ。冗談、だよな? だよね? そうだと言って。
俺とセンパイは何度も何度も、なーんども言うが付き合ってない。
とはいえだ、俺に彼女がいないのと同じく、センパイに彼氏がいないのも事実だ。
辛いとき、誰かに頼りたいとき、家族よりも他人……という言い方は寂しいか。
信頼できる人と会いたくなる気持ちは少なからずわかる。
俺も時々純を部活サボらせて延々とグチったこともあるし、純も今日はそのつもりで俺と約束したわけで。
純を取る? センパイを取る?
『俺の友人と一緒でもいいですか?』
『いいわけないでしょ』
あれ、これ結構ガチな奴?
ここまでくるとポリシー以前の問題だ。
センパイも純も傷心、俺にちょっとでも慰めて欲しい、そんな状況。
『10分待ってください』
「てわけで、センパイもセンパイで俺もすっげえびっくりするぐらい弱ってるっぽい。どうしたらいい」
「いやそれは橘先輩優先しろよ」
「ええー。昨日のテンションどこいった」
「俺は、まあ来週の放課後でもいいし。我慢できなくはない。けど橘先輩の雰囲気からしてこっちのほうが重症だろ。お前ほど橘先輩のことを知ってるわけじゃないけど、こんな我侭言う人じゃないだろ」
「いや我侭はよく言うしこれ事態もただの悪ふざけという路線も否定できないぐらい茶目っ気満載だぞ」
「だとしても、お前が騙されたとしてもだ。俺より橘先輩だ。先約の俺が譲るって言うんだから気にするな」
「おう。なんかすまんな」
「大丈夫、一週間ぐらいはダークサイドな俺になってるだけだ」
「十分怖いわ。さわやかイケメンキャラ崩壊させんな」
「俺にそのキャラの自覚はない。大丈夫だって。聞いてもらいたいことあんまでかい声で話せない事だけど、気晴らしに明後日ぐらいには昼飯一緒に行こうぜ」
明日は部活の昼練習で学食にはこれないらしい。
ええ、部活って放課後以外も活動するの、怖いわ。
帰宅部でよかった。
「おっけ。今度こそ先約優先のポリシー守るわ」
中身残念な奴だが、なんだかんだでさわやかイケメンのおかげで放課後、喫茶店でセンパイと会うことができた。
「キスして」
「帰っていいっすか」
何言ってんのこの人。
俺の先約ポリシー頭下げて取り消してここに着てそういう笑えない冗談言うの。
「彼氏いるのにキスしたことないってバカにされたの!!」
「うっせえ、だから俺はセンパイの彼氏じゃねえ! キスだなんだって事がしたいなら誤解を解いて彼氏作れ!!」
「キミじゃなきゃ嫌なの! オトコ、キライ!!」
「カタコト流行ってるんすか? 落ち着いて。どうどう。あとさらっと俺が男じゃないみたいな言い方やめて? 俺も男っすよ? 狼っすよ?」
「そもそもさー! 私の彼氏って言われてさー!! 自称狼君がさー。こう、なんもないのなんなの!?」
「嘘と誤解しかないっすからね! 周りが勝手に噂しているからって、センパイに彼女を求めてねえっすよ! 順序が違うの!!」
「ああいえばこういう!」
「噂が気にならないなら、キスしたってことにすりゃいいじゃないですか。どうせ付き合ってるって話自体が嘘なんだから」
「キスしたことがないってだけじゃないの! キミが私に対して優しくないって、悪口言うんだよ。キミ、すっごく優しいのに悔しくて!!」
「いや俺センパイに優しくしたことないっすけどね。本当に落ち着きましょう、深呼吸して。あと他にもお客様いるからわめかないで!?」
「キスして」
「だから、うーん。なんていうか」
断ることは別に大したことではない。
しかし、その所為でセンパイが自分に自信が持てなくなったらどうしようかと思った。
センパイはもうびっくりするくらい美人だし、性格はちょっと残念で時々ポンコツだけど、十二分に魅力的だ。
「……俺も男だ。目を閉じて下さい」
「オトコ、キライ」
「おい実は結構余裕だろ。ああもうめんどくせえ」
俺は片手をセンパイの頬に、もう片方で前髪をあげ、額に口付けをした。
ほんの一瞬。触れるかどうか。
「これでいいっすか。どこだろうが、キスはキスっす」
「ンッッッッ!!」
げしげしとテーブル越しに蹴られているが甘んじて受け入れよう。
額とはいえ、キスはキスだ。
付き合ってもない俺にされて、嬉しいはずもない。
「お会計! まとめて!! 帰る!! カエル!!!」
俺の分の支払いを済ますと、顔を真っ赤にした先輩は喫茶店を出ようとする。
「ばーか! また明日ね! べーっ!」
あっかんべえなんて今時やる奴居るのかと思ってたけど、居るもんだな。
あと、やっぱセンパイは何やっても様になるというか、美人なんだけど、今日だけは可愛いと思った。
『昼。学食。スペシャルランチ』
センパイが店を出て、すぐにスマホが振動した。
『どうせ食いきれないのに嫌がらせっすか』
『仕返し』
まあ、明日の昼は誰とも約束してないし、先約ポリシーがあるのでセンパイと昼飯を食うことになりましたとさ。
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