第7話 模擬試験

「そろそろ2年生って模擬試験の時期じゃない? どう? 勉強してる?」


 放課後、センパイから学食に呼び出された。

 毎度の如く俺の予定は先着順だ。

 他に誘ってくれる友達がいないのかというと純がいるけど、あ、いや他にもいるけど大体センパイのほうが先に誘ってくるので仕方ない。


 うちの学校の学食は昼休み以外も解放されており、最終下校時刻まではいつでも利用できる。

 とはいえ食堂も購買も閉まっており、自動販売機で買える、絶対まずそうな惣菜パン以外に食べるものはない。

 よって大体の利用者は友人と雑談をするための場としている。


 俺はミルクティー、センパイはオレンジジュースを自動販売機で購入し、二人掛けの席に座っている。


「先週にやりましたね。結果もちょうど今日帰ってきたっす」


「へえ、見せてもらっていい?」


「別にいっすよ」


「おっ。見られても良いって事は結構いい結果だったんだね?」


「仮に悪くても見せますよ。ダメな結果を隠して誤魔化すとかしたくないんで」


「……、そういう事さらっというのがずるいよなあ」


 センパイの言葉はいつもよくわからないので聞き流し、結果が書かれた紙を渡した。


「え、うそ。思った以上に凄い、凄いじゃんこれ!」


「いやまあ試験があるってわかってりゃ勉強しますし。普段の実力かって言われると微妙なんすけどね」


「いやいやいや、志望校ほぼ全部A評価だし、しかも全部レベル高いし!!」


「2年の時の判定がそのまま直接受験の評価に繋がるわけじゃないんで。推薦取れると思ってもないんで」


「私の今頃も結構いい成績だったんだけど、それ以上だよ。多少レベル落とせば推薦取れると思うよ」


「行きたい大学だから志望校なのになんで楽するためにランク落とすんすか。学費だって安くないんすよ」


「キミって結構まじめだよね。目つきも口調も態度も悪いのに」


「明らかに貶してますよね? デコピンしますよ?」


「ごめんごめん。そうだ、お詫びと良い成績取れたご褒美に……」


 センパイはごそごそとカバンを漁る。

 お目当ての物を手にしたのか、そっと手をカバンから引き抜いた。


「口あけて」


 俺は言われるがままに口を空けた。


「はい、チョコレート。結構高い奴」


 普段口にするようなチョコレートよりも、なんていうか、俺の味に対する語彙力がないからあれなんだが、高級だなあって感じのチョコレートが一粒口に放り込まれた。

 軽く噛むとすぐに溶け、甘すぎないビターな味が口に広がる。




「やっぱり橘さんって……」

「いやもう堂々とあーんしてるのに付き合ってないとか嘘でしょ」

「結構お似合いだよね、あの二人」




 すげえヒソヒソ声が周りから聞こえてくる。

 やめて、誤解なの。俺とセンパイはただの、ただのなんだ?

 先輩後輩?

 いやさすがに俺でもそれはないと思う。

 凄く仲良くしてくれるし、放課後イコール家に直帰な俺に構ってくれるし、ただの先輩後輩ではないと自覚はある。

 強いて言うなら、仲の良い先輩後輩?

 いやそれも違うし。


「んで、キミの志望校もわかったし、私も進路決めないとなあ」


「センパイこそ俺と違って常に成績優秀でしょ。3年にもなって決めてないんすか」


「やりたい事は決まってるけど、ここじゃないとって事はないんだよ。じゃあ闇雲にレベルの高い所に入れば、やりたいことが本当にできるかっていうとそうじゃないかなって」


「まあ、一理ありますね。俺はやりたい事がないから手が届きそうな範疇でレベル高い所目指してます。実は学部も適当に一番難関そうな所でした」


「あ、やっぱり? 文系理系ですらごっちゃだったからそうかもなーって思ったよ。でもまあうちは3年から文理わかれるから、それまでには決めておいたほうがいいよ」


「なんかちゃんと先輩らしい事言われてる。本当にセンパイですか?」


「失礼な。いつだって私はキミの事を大切に思っているのだよ」


「じゃあ俺の彼女ってのを」


「取り消しません」


 なんでやねん。理不尽極まりない。

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