第5話 実際問題、彼氏いらないの?

 今日も今日とてセンパイに呼び出されて放課後、屋上にいる。

 呼ばれて、先約がなければ最優先するという俺のポリシーをそろそろ曲げたい。

 大体俺の放課後、センパイに奪われてるじゃん。

 ノーと言える人間になりたい。


「キミはさ、本当に彼女欲しいの?」


「欲しいからセンパイと付き合ってるって噂を嘘だって言って欲しいんですけど」


「それはだめ」


「理不尽。逆に聞きますけど、センパイは彼氏欲しいと思わないんす? 同性愛的な奴?」


「ラストの発言、今のご時勢絶対アウトだから私以外にしないで。で、まあ彼氏はいるかいらないかっていうと微妙」


「やっぱ同性しか」

「止めておけって言ったでしょ」


 うん、まあ冗談だけど。冗談が冗談で済まないこの世の中辛いわ。つれえわ。


「私もさ、ほんとよくわからない。友達も彼氏持ち多いし幸せそうだけど、じゃあ自分が?ってなると全然しっくりこないんだよね」


「センパイならその美貌で男手玉に取って『遊びなんだよね』とかさらっといいそうですもんね。男は簡単に手に入るけど本物ってなんなの?とか真顔で言うタイプですよね」


「怒っていい?」


「はい、すんません。流石に言いすぎました」


「でも否定しきれないっていうか、キミだけじゃなくて他の私の事まったく知らない奴にもそう思われてるっぽくてさ」


「センパイだと、こうシブヤ的なところで『おじさんいくらで買う?』とか言って――」


 普通に横腹殴られた。痛くないけど、本気で怒ってるなあってのは伝わった。


「キミの場合、そうやって茶化してくれるからいいけど、きっと他の連中もそう思ってるのかなあって。なんか居心地悪いんだよね」


「話逸らしたの俺っすけど、そういう風に見られてるから彼氏できないって、そういうオチっすか」


「ばーか。全然違う。彼氏……彼氏か。ねえキミは彼女ってのと恋人って、どう違うと思う」


「……え? どう違うんす?」


「人によっては同じ、人によっては違う。私は、彼氏っていう恋人が欲しいの。だから、恋人になって欲しい奴から絶対に告白されるよう日々頑張ってるの」


「俺から見るといつも変わらないんすけど。どう頑張ってるんす?」


「シャンプー変えた、結構高い奴。家族でも共通で使えるし育毛効果があるってお父さんを説き伏せた」


「ああ、だから一昨日からセンパイの髪の匂いすっごくよくなったんすね」


「ンッッッ!! あ、あとちょっと前まではシャワーで済ませてたけど湯船に入ってる。デトックス目的で入浴剤を使ってる。汗だらだらでるし、きっと効果でてるはず」


「だから最近柑橘系の匂いが強いんすね。髪の匂いとなんか喧嘩しててどうかなって思ってました。むしろ入れないほうがいいかもっす。入れるならもっとミルキーなほうがセンパイっぽいっす」


「ンッッッッッッッ!!」


「センパイってサバサバ系に見えけど結構乙女じゃないっすか。甘い匂いが似合ってるんすよね。でも香水は止めたほうがいいっす。センパイのナチュラルに綺麗なのが、香水使うと人工的になるっていうか」


「ばーか! ばーか!! ばーかばーかばーか!!」


 そういうとセンパイは屋上から泣きそうになりながら出て行った。


「別にセンパイなら頑張らなくても彼氏できそうなのにな。世の中不思議」

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