第4話 学生に2000円のランチを提供するのは正気か
世の中、理不尽というかおかしいことがありふれている。
例えばたかが高校生の昼飯に2000円もする定食を用意するとか
例えばその中身が、肉と肉と肉と肉。
具体的にカルビ、ハラミ、タン、ホルモン。
何ここ焼肉屋なの?
「ちゃんと焼肉屋で食べる肉だねこれ」
何が理不尽かって、マジでこの2000円するスペシャルランチを俺に奢らせてるセンパイだよ。
「ふう、お腹いっぱい。約束どおり後は食べていいよ」
このクソ女、それぞれの肉一切れ食ってギブアップしやがった。
白米もサラダもスープも手付かずじゃねーか。
きっと500円分すら食ってねえよ。
「特にね、このハラミが最高。カルビのように油だらけじゃないし歯ごたえもいい感じ」
センパイは自然と箸でハラミを掴み、俺の口元に運んできた。
馬鹿め、こういう「あーん」的なもので俺が動揺するものか。
普通に口にし、一方で俺の片手には白米、片手に箸を持ち運ばれたハラミを租借しつつ、白米と堪能した。
「めっちゃうめえ」
高校生相手に2000円というランチを提供する理由がわからんでもない。
お小遣い、もしくはアルバイトの給料で自分へのご褒美とすればこれは悪くはない。
「次、カルビ食べる?」
「なんで肉を俺に食わせるのがセンパイなんすか。残した分は俺のものっすよ」
「残してないし。今このランチは私のもの。それをどうしようが私のもの。だってキミの奢りだし」
言い分としては悪くない。最悪食べきれないと言い切って捨てても、奢った身、提供した身としては文句は言えない。
勿体無いし、色々無作法だとは思うけれど。
捨てず俺が食っても良いと言ってくれるだけ良心はあるんだろう。きっと。
「……カルビはタレをがっつり付けてくれると嬉しいっす」
「オッケー。はい、あーん」
あーんなんてクソみたいな言葉を口に出さず差し出されたカルビを一口で含む。
そして白米を掻っ込む。肉と白米は実に合う。間髪いれずに掻っ込んだのは照れ隠しではない。
少し口の中が乾き、スープか水か悩み、どうせ残された定食のスープも消化しないといけないと思い手を伸ばした。
「あ、このワカメスープ美味しい」
先手を打たれた。
仕方なく水に手を取り喉を潤す。
「このスープ、すっごい美味しいよ。飲んでみてよ」
当然スープは一つ。
それって、まあ、そうだよな。
「口にしたら全部飲んでください。コップ1つを男女で共有ってのははしたないっす」
「んー? 間接キスだからかい? キミもそういうの気にするんだ」
「しないほうがおかしいんす。 センパイはあれっすか、美味いジュース飲んだら誰にでも『おいしいよ飲んでみ?』とかいう無自覚男たらしビッチですか」
「めっちゃ言われ放題だけど、まあ確かに配慮が足りなかった。だから、そのなんだ」
センパイは手に取ったスープの器を俺に突きつけた。
「こっちは、私口にしてない。だから大丈夫だから」
「いやまあそうなら」
差し出されたスープを口にする。
確かに普段飲む味噌汁とかコンソメスープとは違う味わいがあった。
ただ、食器の洗い逃しか少しだけメンソールの味がした。
放課後、何時もどおりセンパイに呼び出され屋上にいる。
センパイは唇が乾燥しているのかリップクリームを塗っていた。
「ねえセンパイ」
「黙秘」
くそっ、センパイのリップクリームの匂いと昼のスープの器についてた匂い、同じじゃねーか
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