第3話 センパイの愚痴

 スマホがぶるっと震えた。

 今は丁度週に一度の6限目が終わりそうな時間だ。


『喫茶店』


『うっす』


 本当はノーと言いたいけれど生憎今日も今日とて放課後に予定はない。

 部活も入ってないし、友達付き合いも良いほうではないから当たり前か。


 俺のポリシーとして、よっぽどがなければ誘われて用事がなければ承諾することにしている。

 家に帰って動画見たり音楽聴いたり、最近ちょっとハマってるスマホゲーに時間を使うのもいいかもしれない。

 しかし、それはいつでもできると言えばできる。

 センパイが最近頻繁に誘ってくれるけど、それ以外はない身とてしては、それを拒んでまで1人の時間を確保しようとは思わない。




 この時間に急に呼び出されるってことは、センパイの愚痴を聞くこと確定なんだけどな!!




「んで、どうしたんすか」


 センパイが普段通ってるオシャレで静かな喫茶店で、俺はアップルティー、センパイはブルーマウンテンをブラックで飲んでいる。


「んー特になにも。キミの顔みたらなんかどうでもよくなった」


「あ、じゃあ帰っていいっすか」


「いやいや、一応話を掘り下げようよ。キミも私が傷心って思ってたんでしょ」


「どうでもよくなったなんて言われたら、正直興味まったくなくなりました。明日学食奢りましょうか? ぐらいにしか思ってません」


「スペシャルランチでも?」


「ああー、あの2000円するクソ高くてめっちゃ量の多いあれですね。センパイ食べきれるんすか?」


「無理。でもキミに奢らせたい」


「じゃあ残したの俺が食うんで。センパイだと500円分も食べきれないと思うんで、めっちゃ安上がりっすね」


「もうそんなことどうでもいいから!!」


 おっと、普段クールなセンパイが珍しく感情的だ。

 よしもっと煽っていこう。

 あわよくば嫌われて『俺とセンパイがつきあってる』って噂をもみ消そう。




「男の趣味が悪いって言われた。ただのチャラチャラした男に」


「はあ」


 え、全然意味がわからん


「颯君よりそのチャラ男のほうが楽しませてやるって言われた」


「はあ」


「さっきから生返事! 言ったよね、私本当に傷ついているって」


「いや言われてねっす」


「っ……! ともかく!! キミと付き合ってるのが趣味悪いって言われた!! むかつく! むかつくの!!」


「はあ」


「いやなんでずっと生返事なの? さっきやめてって言ったよね!?」


「いや止めてとは言われてないんで」


「ンッッッ!!! もういい素っ気無くても。あいつむかつく! むかつく! むかつくの!!」


「はあ」


 そもそも付き合ってないし、俺も俺で平凡な奴なんで、そう言われてもどうも思わないからなんでセンパイが感情的になっているのか正直ようわからん。


「んで、センパイはそんな愚痴を吐き出すだけでいいんすか」


「……やだ」


「センパイに嫌な思いさせた奴、どうしたいっす?」


「あ、それは大丈夫。キミがどれだけ凄いか、写真と学力と身体測定と周囲からの評判と体育祭の『アレ』を付きつけたらむしろ泣きながら帰っていったから」


「おい俺の個人情報簡単に流すな」


 まあ、うん。俺がでしゃばらなくても解決したならいいけど。

 ちょっと間違えると停学とか最悪警察沙汰だからあんましたくないんだけど。

 センパイが結構へこんでるんで、そうせざるえないかなあとは思ってたけど解決はしてるようでなにより。


「傷ついた女の子が目の前にいます。男の子はどうするべき?」


「お会計ー。あ、まとめてでいいっす」


「……ほんと、鈍感」

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