第2話 自慢できるかどうか

 誰が勘違いしたのか、誰が噂を流したのか。

 まあ、それはさておき俺はセンパイと付き合ってることになっている。


 俺個人の話になるけれど、あんな美人のセンパイとそういう関係になると嫉妬とか嫌がらせとか受けるかもなんて身構えた時期もあった。

 だが意外とそんな事もなく、間接的に噂が広がる以外は取り立てて目立ったことはない。

 こいつ以外は。


「さすが颯、橘先輩とは順調か? 美人先輩と付き合えて鼻高々か? 自慢しまくりか?」


 俺の唯一の親友、と思っているのは俺だけかもしれんが、気兼ねなく話せるし、お互い年相応に悪ふざけできるほどの距離感がある榊 純が、からかうように声をかけてきた。

 クラス違うのに、こいつこそイケメンで毎日告白されるようなさわやか君のくせに、隙あらば俺に絡んでくる。

 なんなの、女子に好かれすぎて性癖歪んだの?


「しばくぞ、誤解だって知ってて煽るな。てめえの弱み一つや二つじゃ収まらないほど握ってるの忘れるな」


「手厳しいねえ。でも俺の弱みより『颯は実は橘先輩と付き合ってなくて、嘘撒き散らしたのは颯でした』って俺が広めたら?」


「……学食のAランチでいいか?」


「おっけ、それぐらいなら出せるよ」


 あれ? 俺が奢るから勘弁してくれって意味で言ったんだけど、俺が奢られるの? ん?




 昼休み前の4限目、学食はわりと混むのでこっそりと教室を抜け出す。

 世界史のよぼよぼおじいちゃん先生でよかった。

 何がよかったって、抜け出すのバレバレだけど見逃してくれたところか。

 ……あの後の授業内容、テストで高配点でだされるだろうなあ。

 誰かに聞いておこう。

 

「よっ、Aランチと席確保しておいたぜ」


「サンキュー」


 なんで俺奢られてるんだろ。いや先の会話からして絶対俺が奢る側だったろ。

 なんだこのイケメン。なんだかんだで弱みに付け込んで昼飯ごときたからないアピールか?



 こいつは体育の後だから早めに運動着から着替えてしまえば昼休み前に食堂にいてもおかしくない。

 俺もあたかも同じクラスって雰囲気で堂々としていれば、12時前の閑散とした食堂で飯を食っても違和感はない。


 だからか、だからこそ、誰も聞き耳を入れられない所に俺を呼びつけたのか。


「俺とセンパイはそんな仲じゃない。だが俺が否定しても普段の態度が天邪鬼すぎて照れ隠しって思われてる。じゃあセンパイからもってお願いしても何故かはぐらかされる」


「ほう。なるほどね。お幸せに」


「いやいやいやそこは『俺も手伝うぜ』とかいう場面じゃねーの?」


「だからこそだよ。俺はお前は親友だと思ってるし、だから傍観。なあ『橘先輩ってこの噂』が嫌だって言ってる?」


「言ってない。なんでだろ。俺みたいな平々凡々な」


「俺、その自己評価下げて俺は悪くないみたいなの嫌いなんだ」


 くっ、センパイと同じ事言いやがって。

 いや俺如きだぞ。そういう俺から見て俺が正しく評価するのがなんでダメなんだろうか。

 しかしそんな所を議論しても仕方ないので言葉を変える。


「好きでもない奴と変な噂立てられて、否定しようともしねえセンパイって変人だよな」


「……はあ、そうか。まあ、がんばってください橘先輩」


「え、いや応援するの俺に対してじゃね? 変な噂のせいで俺、架空彼女持ちだよ? 本当の彼女できないんだけど?」


「がんばってください、橘先輩。微力ながらこの朴念仁のフォローしますので」


 こいつから来週もAランチを奢るから食堂に来いという約束を取り付けられた。

 財布に優しいからいいけど、なんだろ、なんなんだか全然わからん

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