第4話
翌朝。私はあかりの隣で寝ていた。あかりを尻尾で包んで。
「んふふ。きもちい…。おきつねさまのしっぽあったかい…。」
「こら。あかり。くすぐったい。」
尻尾を振ってあかりの頬擦りから逃げようとするがあかりは離さない。
「おきつねさま、ありがとう。あかりがないてたから、よこにいてくれたんだよね?」
夜中にあかりの様子を見るとまた泣いていた。一人部屋を与えられていたがここにくるまで同年代の子供たちと広間で寝ていたのだから急に一人になると寂しいのだろう。人間は一人になると色々と考えてしまうと言うではないか。あかりのことが心配になった私は様子を見に行ったのだ。するとあかりは泣いていた。立ち去るわけにも行かずそばにいてやることくらいしかできなかった。
「かみさまがね、おしえてくれたのよ。さみしいなっておもったらまわりをみたらいいよって。おきつねさまがかならずそばにいるからねって。それでもさみしいなっておもったら、おきつねさまのしっぽのなかにはいりなさいっていわれたの。もふもふできもちいいから、かみさまもついさわっちゃうんだって。それでね、さわってみたの。とってももふもふできもちいいの。」
私の尻尾にじゃれつきながらあかりが言った。
「でもね、おきつねさまがいやだっていうならやめるよ。おかあさんからひとがいやだっていったらすぐにやめるのよっていわれたの。だから…。」
「あかりなら構わん。」
全く主様はわたしをなんだと思っているのか…。まあ、あかりが嬉しそうだからいい。
「あかり。今日は学校じゃないか?このところ忙しくて行けていなかったのだから久しぶりだろう?」
「ん…。」
あかりの心が暗くなったのがわかった。それでもあかりはゆっくりと起き上がり準備を始めた。
「行ってきます…。」
とぼとぼと家を出るあかり。どうも気になる。様子を見に行きたいが、小学校は苦手だ。子供たちは鋭く、どれだけ身を隠そうとしても何かを感じ取っているのかすぐに見つかってしまう。
「あかりちゃん、大丈夫かしら。」
宮司の嫁の声が聞こえた。話によるとあかりは施設の子、というだけでいじめられており、友達がいないから毎日神社にいた。
「無理やりいかせてしまったかな…。」
私は少し後悔した。うーん、と頭を捻り小一時間。
「白夜」
主様に呼ばれた。主様もあかりのことが心配らしい。尻尾がくすぐったい。どうすることもできない私達はただただ待つことしかできなかった。
「ただいま!」
明るい声であかりが帰ってきた。かなり上機嫌そうだ。
「あかりちゃん、学校どうだった?」
宮司の嫁が探りを入れる。しかしそれを跳ね返すかのようにあかりはとてもにこにことして答えた。
「あのね!このあかいおひも!おばちゃんがかわいくゆってくれたでしよ?きょうしつのこがね、かわいいって!おともだちになっちゃった!」
えへへ、と笑うあかり。宮司と嫁は安心したように微笑み、その瞳にうっすらと涙を浮かべていた。
夕食時も楽しそうに話す明かりを見て私も宮司たちも安心した。食後、入浴を済ませ、あかりは自室に入り布団に転がる。
「おきつねさま、きいてる?かみさまがくれたおひものおかげで、わたしのことどっかいけっていってたおんなのこたちがね、かわいいって、なかよくしようっていってくれたの。いままでされたこと、いやだったけどきょうからなかよくしてくれるんだっておもったらね、いいかなっておもうんだ。おきつねさまはどうおもう?」
私は正直あかりが許しても許したくない。しかしあかりが許したいのならば許せば良いとも思う。
「いいんじゃないか。」
姿を現し答える。あかりの頬に涙の筋ができた。
「よかった。かみさまにありがとうって…。」
「伝えておこう。」
聞こえたかわからない。あかりは寝てしまった。久しぶりの学校、それもいじめられていた場所だ。緊張して疲れたのだろう。
私はこの愛おしい生き物に幸せになってほしい。あかりのために何ができるか考えつつ、あかりを包み込んだ。
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