第3話
騒がしい。気がつけばもう夕方が近づいていた。つい、寝すぎてしまったようだ。
「あかりちゃーん!」
宮司とその嫁があかりを呼ぶ声が聞こえた。様子をさぐってみればどうもあかりが見当たらないらしい。
「まさか…いや…。森は騒がしくない。森にはいっていないか。」
流石に初日から言いつけを破る子ではなかったようだ。子供はすぐ約束を忘れてしまう。だから目を離せないのだ。…つい寝てしまったのだが。
「探すか。」
探すと言っても子供一人探すくらい神使である私にとっては容易いことだ。容易い…はずなんだが…。
「見つからん!?なぜだこの土地からは今日は誰も出ていないぞ!?」
見つからん見つからん…としばらくウロウロしてハッとした。
「まさか…。」
森の手前の小さな殿舎。祠ほど小さくはないので小学生程度なら余裕で入れるだろう。しかし、ここは主様の隠れ宿であり神使である私の力でさえ中は把握出来ない。そして何より通常人には見えないはずである。
「あかりっ!」
私が開けるとそこには主様に膝枕をされすぅすぅと寝息を立てているあかりがいた。
しーっ。と主様が口元に指を当てにこにこと笑う。
「主様…。」
まさか本当にここにいるとは思わなかった上に主様公認か…と呆れた声を出す私に主様は静かに笑う。
「仕方がないじゃろう。私の隠れ宿をあかりが見つけたのじゃ。お前に見つかって以来じゃ。宮司らも知らぬ。流石は私の愛する子らよ。」
「主様、あかりがいるところでそれは。」
「何、わからんだろう。あくまで寵愛じゃ。」
「んっ…。」
あかりが目を覚ました。眠そうに目を擦る姿に私と主様は心の中で悶絶した。
「おかあさんのゆめ、みちゃった。」
そう言って泣き出したあかりになんと声をかければいいかわからなかった。見かねた主様があかりを抱き寄せた。
「あかり、おいで。いいことを教えてあげよう。」
私にも聞こえない声でひそひそと主様があかりに囁いた。それを聞いてあかりはようやく泣き止み、またにこにこと笑った。
「ありがとう。かみさま。またあそびにきてもいい?」
「いいとも。だが宮司たちには内緒ぞ?」
「うん!」
あかりはすっかり元気を取り戻していた。
「あかり、宮司たちが探している。早く戻っておやり。きちんと謝るんだぞ。」
「うん。」
あかりはありがとうございます。と少し照れつつお礼を言い、本殿の方へと駆けて行った。
「なぁ、白夜。なぜあの子はあんなに可愛らしいのだ。純粋で美しい。」
「主様。当然ですよ。主様から寵愛を受け、さらに私も彼女を愛しております。愛されている子は当然可愛く美しい。」
「そうか、そうじゃな…。白夜、気を抜くなよ。あの子はとてもいい子すぎる。私がそばにいたいがそうも行かないだろう。お前がきちんと見ているのじゃよ。あの子に何か有れば白夜、お前は野良の狐からやり直しだ。せっかく七尾になったのだ。あの子をしっかり守り立派な九尾になれよ。」
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