第1話

「おじちゃん!来たよ!」

「お、おめかししてきたね。おばちゃんがお着替えを手伝うからね。おいで。」

宮司の嫁がこんにちは、と顔を出した。今日は少女が神社に住むための儀式を行う。今日はわたしも気合を入れている。なにせこの提案をしたのはこの私だ。この少女のことがたいそう気に入ったのだ。

「わたしはなにをするの?」

少女は宮司の嫁に問いかけた。

「この神社に住むために、身を清めた後神様に許可をもらうの。ここの神様は厳しくて神様が認めないとこの神社には入れないのよ。そこに住むなんてもってのほかでね。でもね、心配しなくて大丈夫よ。あかりちゃんはこの神社に入れているし、とっても可愛い笑顔を持っているもの。神様は笑顔が大好き。だから笑っていれば大丈夫よ。」

まあなにせ私が既に認めているからな。問題はない。

「そっか、わかった!」

キラキラとした瞳でうなずく少女。とても可愛い。

「わたし、おかあさんにあえるとおもうの。おかあさんがもうしんじゃったのはね、ちゃんとわかってるんだ。でもきっとかみさまはあわせてくれる。そんなきがするの。」

「そうかい。楽しみだねぇ。おばちゃんもあかりちゃんが元気になるととっても嬉しいんだよ。会えるといいねぇ。」

少し悲しそうな顔をして宮司の嫁が言う。まるで会えないとでも言いたげである。

「よし、出来た。あかりちゃん笑って。うん、可愛い。とびっきりだ。じゃあ神様のところ、いこうか。」

少女の手を引いて宮司の嫁が斎場へと向かう。宮司と少女の二人が部屋に入り座った。

「あかりちゃん、ここに神様がいらっしゃる。心を落ち着かせて、神様を呼んで。そしたらきっと神様が出てきてくださるから、ここに住みたいです、って伝えて。わたしは外で待っているからね。終わったら出ておいで。笑顔、忘れないで。」

宮司が出たところを見計らい、わたしは隠し身を解く。

「あかり。」

「かみ、さま…?」

あかりが目をゆっくりと開ける。

「残念だがわたしは神様ではないよ。遣いの狐だ。」

「おきつねさま!?え、でもひとのかたち…とあれ、おみみとしっぽがある!どうして?」

「なんだ。狐がいいのか?」

ぽんっ。わたしは少女のために狐の姿へと戻る。

「わあ!おきつねさまだ!あえた!おきつねさま、わたしね!おかあさんにあいたいの!」

「これ、興奮するでない。あかりのことはずっと見ていた。あかりが母に会いたがっていることもよく知っている。だけどな、お前の今の願いはそれではないだろう?」

「あ、そっか。かみさまにここにすみたいですっていわなくちゃ。あれ?でもかみさまどこ?」

「心配せずとももうくる。その前にあかりが心に決めることがある。ここでしっかりと神と人とをつなぐ役目をしっかりと果たせ。そうすれば母にも会える。いいか?」

「うーん…。よくわかんないけどここでおしごとしたらいいの?おじちゃんのおてつだいしたらいい?」

「うーん、まあ、そういうことだ。やれるか?」

あかりは迷わずうなずいた。6歳にはまだ難しかっただろうか。だがわたしはこの少女に仕えてほしい。

「これ、白夜。そないに小さき子をいじめるでないよ。」

「主様。いじめてなどおりませぬよ。覚悟を聞いたまででございます。」

「そうかい。あかり。うちの狐が悪かったね。ここに住むのは構わないよ。あかりの笑顔と母を追い求める必死さ。素晴らしいものじゃ。この狐、白夜という。この狐をお前の相棒に貸してやろう。白夜。精進せえよ。」

あかりはきょとんとしている。少し言葉が難しかったのか頭にはてなが浮かんでいるのが見える。

「かみさまきれい…」

ようやく出た言葉がこれである。

「はっはっは。よい。気に入った。わたしもお前を気にかけよう。これはわたしの寵愛を受ける子の証じゃ。」

主様があかりに赤い紐を渡した。

「主様、簡単にお渡ししてよいのですか。」

「なに、不満か?お前も十分気にかけているじゃろう。まずこの神社に入ることができたのじゃ。十分に資格はある。それに…。」

主様は言いかけてやめた。とても悲しそうな表情だった。

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