第2話

 避難してやってきたリビングには母だけでなく父もいた。


 部屋に蜂が入ってきた話をすると二人ともふぅんという聞く気があるのかないのか曖昧な返事をしてきた。


 他人事では済まない私はイラッとしつつも二人に蜂駆除をお願いしてみる。


「お父ちゃんは蜂を退治できるん?」


「蜂だろ? 軽く叩いてやれば逃げるんじゃないのか?」


「だからお父ちゃんがやってよ」


「お、お父ちゃんが? お父ちゃんはなぁ、蜂は、蜂はちょっとなぁ……」


 しどろもどろになる父、戦力になる気が全くしない。元より戦力外の私に口出せることじゃないけども。


「そうだ。お母ちゃんはどうだ。お母ちゃん、ゴキブリとか普通に叩けるだろ?」


 助けを求めるような父の視線に母はなにやら悩むような素振りを見せる。


「お母ちゃんなぁ、蜂だけは無理なんよ」


 どうやら蜂は我が家の天敵だったらしい。




 とはいえ家に入り込まれた以上なんとかせねばならない。


 リビングにいる間に去ってくれたら良かったが蜂はまだまだ居座るつもりらしかった。天井を我が物顔で歩く姿を見て思わず嘆息しそうになったくらいだ。


「お父ちゃん、バッタやダンゴムシなら全然平気なんだけどなー」


 強がるように父が言うが、やはりというか戦力外だ。


「お母ちゃんも蛇やムカデや蜘蛛とかなら平気なんやけどねー」


 応じて母も言うが、逆に何でこの人は蜂だけ苦手なのかが分からない。


「お母ちゃん、なんで蜂は駄目なん?」


「子供の頃、捕まえようとして刺されたんよー」


 人の事を言えた義理ではなかった。




「お母ちゃん、蜂を捕まえようとしたのか……」


 小心者の父が果敢すぎる母の経歴にドン引いている。


「そうやよー。虫取り好きだったんよー」


「もしかして誰も使わないのに玄関にあるやたら古そうな虫取り網って……」


「それ杏子がちっちゃい頃、使うかな思うて、お母ちゃんが買ったやつよ」


 実は今も裏では虫取りをしているなんて言い出さなくて少し安心した。


「でも、誰もできんならお母ちゃんがやるしかないなー」


 突然、言い出した母に私と父の視線が向く。なにを、と問いかける前に母は口を開く。


「虫取り網、持ってきてやー、杏子」


「何に使うん?」


「捕まえて潰すんよー、蜂を」


「潰すん!?」


 言うまでもなく私も父も驚いたまま顔を凍りつかせていた。


 ……お母ちゃん、本当に果敢すぎやしませんか?

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