第四話―⑥ 彼へのお返し
「はい、はい。そうです、はい、もう彼は心配ありませんので。ええ、なので心配しないで大丈夫です。はい、もちろん。彼に何かあったら、すぐに連絡しますので。はい、じゃあ、また……」
通話を切り、一息つく。やはり、というか
ベッドに腰掛け、昼間の一件を思い出す。謝罪
そんな風に思いながら、スマホを机の上に置こうとして──ふと、思い直す。
写真のフォルダを開き、目当ての画像をタップする。
いつぞやの、デートの際に撮った写真が、画面いっぱいに表示された。
「うーん……? 改めて見ると、
もちろん、彼が、じゃない。問題なのは、私の表情だ。いかにも嫌そうでかつ涙目で、
入間くんに見せなくて本当に良かった。送って欲しいと言われても、断固拒否したのは正解だったよね。
今日は、彼に埋め合わせをしたもらったんだ。なら、この写真のお返しも、何かするべきなんじゃないのかな? 入間くんは、何をしてあげたら
うーん? 彼が、喜ぶような事と言えば──
「──あ! そうだ!」
一つだけ、思い付いた。これなら、入間くんへのお礼にピッタリかも!
自身の思い付きの素晴らしさに膝を
「お母さん、お母さん! お願いがあるんですけど!」
居間でお茶を飲んでいる母を見つけ、すぐさまそちらに駆け寄る。
「まあ、どうしたんですか?」
「はい、実はですね──」
──翌日、早朝。
家族もまだ起きてこないような時間帯に、私は一人、台所で調理に励んでいた。
「ふふーん、ふっふふーん♪」
何だか、とても楽しい。この間、
「よぉし、後はこれを盛り付けて、と……できた!」
目の前に並ぶ三つの包みを見て、私は満足げに
うん、我ながら良い出来だと思う。これなら、きっと彼も喜んでくれるはず。
「さ、後は皆に気付かれないように、
「おっはよー!」
「ひゃっ!?」
いきなりドアが開き、
「あれ、お母さんじゃないや。お姉ちゃんだ! どしたの、今日はやけに早いんだね」
「あ、あわわ! ふふ、双葉!」
どうしよう、何て言って
しかし、私が
「ああ! ひょっとして、お弁当を作ってくれたの? やったね!」
「そそそ、そうなんです! ちょっと料理の練習をしたくて、今日はお弁当を──」
「わあ、
双葉の目が不審げに細められた。あわ、あわわわわわ!
「お弁当が、三つ? あれれ、おかしいなあ。お父さんは今日、会食があるからお昼は要らないって言ってたよね? お母さんの分? でも、それじゃあ包むのはおかしいし」
か、勘が良いにも程があるよ! どうなってんの、この子! どっかの名探偵なの!?
「ははぁん?」
「ひぃっ!?」
にやーっと双葉が笑う。真実を見つけた。もう逃げられぬぞ。覚悟せよ。
双子の共感がどうとかでなくても、わかる。その顔は、そう物語っている。
「ふうん? 最近、どうも様子がおかしいなあって思ってたら……そういうことなんだ。おめでとうって言えばいいのかなぁ?」
「ちちち、違うの! 彼とは、そんなんじゃ──」
「……『彼』? ふっふっふ、語るに落ちたねえ、お姉ちゃん? 私はまだ、そんな事聞いてないのになあ」
「は、
「ヒヒヒ、わかりやすいお姉ちゃんが悪いのだよ! ねえ、誰? 誰なの? お姉ちゃんを
ニマニマ笑いながら、双葉が絡んでくる。
この時、この光景を見ていたのが双葉だけではなかったことを、私は知らなかった。妹の追及をかわすのに精いっぱいで、台所の外にまで気を配る余裕がなかったのだ。
ぶっちゃけて言えば、両親の存在を、すっかり忘れていたのである。
「……会話が気になって仕方がないのに、この雰囲気じゃ入れない……クソッ! 双葉、追及の手を緩めるな! もう少し、そう! ガードを崩して──そこだ!」
「もう、盗み聞きなんてお行儀が悪いですよ、あなた。さあさ、今日はお赤飯でも炊きましょうかね?」
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