幕間
「何かさー、最近退屈よねぇ。平和、っていうかさぁ」
朝の通学路。あちらこちらで、「おはよう」の挨拶が飛び交っている。
大分寒くなってきたとはいえ、眠気はそう簡単に飛びやしない。
眼をこすりながら、
「そうですねえ、テストも近いですし、ここらでなーんか息抜きしたいですよネ」
同意の声は、すぐに返ってきた。七瀬の両脇を歩いている
「そうよね、そうよね。あーあ、何か面白い事無いかなあ。こう、いっそ学校でもどかん、と──」
「リア充、爆発しろよ!!」
「んわっ!? な、何よ、今の!?」
雷鳴のように
気だるげな朝の空気など、一気に吹き飛んでしまった。
周囲の生徒達も、何事かと、目を白黒させている。
──すると。
「お、落ち着けよ。いつもの事じゃねえか」
「これが落ち着いていられるかってんだ! 毎朝毎朝、イチャイチャしやがって!」
聞き覚えのあるダミ声に、
「校門の前にいるのって、
「ったく、同じことを何度も言わせんなよな。いい加減慣れろって」
「そうですよ、
備前
「さ、亮一さま。今日の分のお弁当です。亮一さまのお好きな唐揚げをいっぱい、入れてありますからね」
「お、そいつは楽しみだ! 昼休みが待ち遠しいな!」
白と紺のコントラストが
「愛情たっぷりプライスレスな、毎朝の手作り弁当……ッ! 格差社会が極まりすぎだろ! 日本政府は何やってんだ!」
「また始まった……もう諦めなよ、晴斗くん」
見当違いの怒りを国家にぶつける晴斗に、
「だって、だって! こんな
「たく、晴斗にも困ったもんだぜ。コイツは俺様の大切な家族だ。姉代わり、母代りみたいなもんだって、お前も知ってるだろうに。なあ、
「……むう」
「え、何でそこでむくれるん? お、俺何かした?」
「晴斗君の気持ちが、少しだけわかった気がするよ。亮一君は鈍いからねえ、全く」
瞬が、涼しげな笑顔で晴斗の肩をぽん、と
「まあ、無いものねだりをしても仕方ないよ。羨ましい気持ちは
「なーにを悟ったような事を言ってんだ、このムッツリ野郎が! 俺が知らないとでも思ったか? 昨夜も
「あれ、ばれちゃってた? やだなあ、そんなんじゃないよ、お
「ナチュラルに義兄呼びすんなや! 顔と
ひとしきり
「チクショウ! やっぱり三次元に夢なんかねえんだ! いいもん、いいもん! 俺には二次元美少女な嫁がいっぱいいるし!」
と思ったら、今度は地団太踏んで怒鳴り出す。
どうやら、さっきのは噴火前の
「負け惜しみじゃねえぞ、クソッタレェェェ!!」
負け犬の
「うわ、朝からキモイもの見ちゃった……」
うげぇ、と
「全く、気色悪いったらありませんねえ! どうしてあんなゴミ虫がこの学校に居られるんだか! 不思議でなりませんヨ!」
「そうよね! ったく、うちの学校一のお荷物の癖に、最近、キモオタぶりが加速してきてない?
ん? 待てよ。七瀬はそこで、ハタッと言葉を止めた。
「これ、もしかしたら使えるかも」
「え、え。どういう事ですか?」
悪巧みの匂いを嗅ぎつけたか、
ノリの良い友人に気を良くして、七瀬は語り出す。
調子に乗っているあのキモオタデブにお
「まあ、それは楽しそうですね。くひゅひゅひゅ、私にも一枚
相変わらずよく
人を陥れるような「作戦」に関して、この娘は天才的なひらめきを持つ。
これは、面白くなってきた。
もやっとした気分が一気に晴れ、代わりに胸が熱く、ときめいてくる。まるで恋をしたかのような熱情が、脳内を駆け巡った。
「ふふっ、どうやらこれで、当分は退屈せずにすみそうね」
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