第4話 1966年 呉(2) チューブラーベルは二度鳴る
本選会場になった市民ホールの大ホールは応援の観客で溢れていて。市民ホールがあったから来てくれたんやって声も聞こえていたねえ。え?冬ちゃんは覚えてるよねえ。秋ちゃんも覚えてる。そう、建て替える前の市民ホールが会場やったんよ。
お祖父ちゃん、千裕さんは運動と歌だけは苦手やってね。だから歌自慢大会は応援するからってうちだけでも出たらいいからって勝手にうちの名前でハガキを送って応募しなすって。
仕方ないからのど自慢素人演芸会はうち一人で出た。予選も通ってね。千裕さんもお友達の松代さん夫妻も応援してはったし、それはうれしかったけど物足りなかったかな。
本選ではあの頃ヒットしていたバラの歌を歌ったんよ。男性歌手の曲やったけどきれいな歌で好きやったし。それで合格のチューブラーベルが鳴り響いた時は松代さん達も大喜び。そんな中で意外な舞い上がり方をしたのが千裕さん。観客席で立ち上がると大きな声で
「チセさん、愛してるよ」
……なんてやってくれて。場内にその声が響いて一瞬静けさがあって。なんやら恥ずかしかったわ。顔が赤くなってたと思うわ(ミアキがすかさず「お祖父ちゃん、ラブラブしてる!」と叫んだ)。
そこに司会の人が「あの方は?」なんて聞いてきたから「
申し込もうかなと思ったのも千裕さんと一緒に出て歌えたらなって思った事がきっかけ。一緒に歌うのは夢に終わったけどお互いにチューブラーベルで祝ってもらえたのは望外の喜びやったよ。
そうしているうちに春海が生まれた。あの子も音楽は千裕さんに似て苦手。本を読んでいるのが大好きな子やったけど、赤ちゃんだった頃はうちの子守唄はまあよお聞いてくれてたわ。
千裕さんと春海がそんなんやったからあんまり音楽が流れているような家にはならんかったんよ。
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