"完全"懲悪

〜〜〜〜ヨウ視点〜〜〜〜


オデッセイを乗っ取っていた怪人、コブラニューマン?を倒してまず一つ解決した!

それから僕たちはお父さんの従兄弟のヒイロさんが用意してくれたホテルで一眠りして、体を休めてしっかり朝を迎えた。

そして朝ごはんにジャパリサンドイッチをお腹いっぱい食べた…ジャパリって付けばなんでもありそうな感じあるよね…?!


「さて…俺は車出してくる、まあ…くつろいで待ってな?」

「「はーい」」


この時代の頃からお父さんはお父さんっぽいところを感じた。


「僕たちの知ってるお父さんと変わらないなぁ…なんか嬉しい。」

「そうだな…もう2度と会えないはずだったから…でも意外な一面も垣間見たと思うんだ。」


僕もうっすら感じていたそれはお父さんがヒイロさんと話す時の姿だった。


「まるで俺やスナネコに何か報告する時のヨウみたいだったな?」

「えっそう?なのかな…??なんかすごい弟って感じはしたと思うけど…」


ということは僕もかなりの弟感があるのかな、いやーそれはやっぱり親子なんでしょう。そういうことにしとこう。


僕たちがテーブルを囲んで昨日のことについて話し合っていると、お父さんが外から帰ってきた。


「さて、大変お待たせしたなよい子たち!準備が整ったし早速加帕里夜市ジャパリよいちへ向かうぞ!」


お父さんは荷物を担いで僕たちを先導して、その背中に決意を決めた雰囲気を放ちながら外へと進み出た。


「…ヒーローの出番、ってな…!」



〜〜〜加帕里夜市〜〜〜



さあやってきました加帕里夜市、昼でもやってる加帕里夜市…こういうところは僕の記憶の中では初めてだからテンションあがるなぁ…


「嬉しそうだな?」

「だってツクヤ〜、こういう賑やかなとこ僕らの時代じゃ無かったもん!」

「…確かにな。」


ここでハクトウワシさんの力を使って悪さをする怪人の目撃情報を集めなくちゃなんだけど…つい楽しくてわくわくしちゃうんだよね〜

…って僕がスキップしていると、お父さんが振り返った。


「おいおい、遊びに来たんじゃないんだぞ?」

「あっ、ごめんなさ…って…」


…注意したのかと思いきやお父さんの手にはジャパリまんが握られていた!


「自分も楽しんでるじゃーん!!」

「あっはっは!!バレちまったよ、ほら2人の分もあるぞ〜」


お父さんは僕とツクヤにジャパリまんを渡すと、自分はささっと食べ終わってしまった。


「早ッ!」

「まあな、調査もあるし…ん、ツクヤどうした?」

「ふう、ふう…ああ、待たせててごめん。」


ツクヤはじつは猫舌だった…!

なかなかかぶりつかずにアツアツのジャパリまんと戦っていた。


「焦らなくて大丈夫だぜ、ほらあそこのベンチに2人で座りな?」


お父さんは僕たちをベンチが並んでいるスペースに連れて行くと、その周囲にいるお客さんやフレンズさんに聞き込みを始めた。


「よっ!」


まず最初に話しかけたのはネコのフレンズさんだった。


「んんー?あ、ケイスケでち!何か用でち?」

「お久だなぁジョフ、またオトナに近づいたんじゃねーか?」


ジョフと呼ばれた語尾が独特なフレンズさんは、オトナという言葉に反応して喜んでいる様子だった。


「ジョフロイネコ、南米に住む野生ネコだな。」

「ほほー、砂漠の野生ネコなスナネコに似たものを感じるなぁ…」


ジョフことジョフロイネコさんはお父さんと世間話を少々話していた。


「…で、本題なんだが…最近この辺に変わったやつは現れなかったか?」

「かわったやつ?ジョフは見てないでち、でもこの辺では『空から何かに見張られている』って噂が立ってることは聞いたことがあるでち。」


空から見張られている…それってやっぱりハクトウワシさんと同じ能力を使ってるって事だよね…


「よーし分かった…サンキューなジョフ、オトナになれるよう応援してるからな!」

「ありがとでち!」


ジョフロイネコさんはお父さんに見送られるとてちてちと走って行った。

お父さんはまた聞き込みを続けようと周囲を見回した。


すると…


「見つけたわ、ケイスケェ!!」


何かがお店の屋根から飛び移ってお父さんめがけて飛びかかってきた。


「おっとぉ…せいっ!」


その何かの腕を掴んでその腕をそれの背中の後ろに回させた。


「ぐっっ…不覚だわ…」

「まーなんでこんなとこに居んだぁ?エカル…」


お父さんに飛びかかってきたのは『この時代のエカルタデタのフレンズ』だった。

僕たちの知ってるエカルさんと同じ声で勝ち気な話し方をしてるからすごく新鮮。


「まあすげぇ飛びかかりだよ、さすがはカンガルーの親戚ってなぁ…」

「ぐぬぬ、今度こそ取ったと思ったのに!」


エカルさんは悔しそうに歯をギリギリさせていた。

お父さんは呆れながら腕を解放した。


「あのな、俺は今大事な調査してんだ…」

「ハクトウワシの化け物探しでしょ?私もそれでここに来たんだから知ってるわ。」


エカルさんは牙の形の武器を出すとブンッと振るった。


「腕が鳴るわ…!」

「無茶すんなよ、相手はセルリアンとは違うんだ。」


猛るエカルさんの姿を見てお父さんは「やれやれ」って感じの顔をした。

そしてお父さんがまた聞き込みを始めようとした時…


「た…たすけてでち〜…!!」


さっきお父さんと話をしたジョフロイネコさんが何かに怯えた様子で走ってきた。


「ど、どうしたの…!?」

「まさかイーグルが現れたのか?」

「んっだと!?」

「ようやく始まるの?」


僕たち3人は走り疲れたジョフロイネコさんを介抱し、エカルさんは戦闘体制に入って走ってきた方向を見た、みんなイーグルが現れると思って身構えた…が、そこには…


「待ってよジョフちゃ〜ん」


カメラを持った男の人がいただけだった。


「へ?イーグルじゃない…?」

「いやまて、アイツがイーグルに変貌する可能性だってある、警戒しろ…」


拍子抜けした僕にツクヤはありうる可能性を説きつつ警戒の眼差しを送っていた。


「あ"〜…厳しく管理してるらしいんだがたまにいるんだよなぁこういう客…ジョフ、コイツ妙な機械つけてなかったか?」

「いや…それは特にないでち…」

「お前ら気をつけろよ、こいつが普通の人間だとしたらなるべく傷つけずに捕えるんだ。」

「チッ、つまらないわね?」


お父さんはジョフを背中で隠し、僕たちは変わらずその男の人…いわゆる「ふしんしゃ」?を睨んでいた。


「「じ〜〜〜」」

「な、なんだよオマエら…くそーーっ!俺は何が何でもジョフちゃんのぉぉぉぉ!!」

「でち!?」


男の人はヤケクソを起こしたように僕たちの元へ突進してきた。

僕とツクヤはなるべく傷つけずに抑え込むために構えた。



…その瞬間。




「うおおおお…お"!?!?」


空から何か大きなものが落ちてきた。

いや、降りてきた…って言った方がいいかもしれない。

空から降りてきたそれは男の人を踏みつけて立った。


「…許さない。」


その姿は白い翼を持った鳥のような姿をしている、怪人…いや、ヒーロー…?

どっちに見えるような姿でもある、僕にはそう見えた。



「出やがったな、こいつがイーグルだ…」

「た…たすけ…ぐえっっ…」


男の人がこちらに手を伸ばそうとすると、イーグルはその人の背中を強く踏みつけた。骨が折れるかというくらいの勢いに僕は思わず目をつぶった。


「やめろ!いくらなんでもやりすぎだ!」


真っ先にそれを止めようとしたのはツクヤだった。


「ヨウは周りの人やフレンズの避難を、ツクヤはあのバカの救助を頼むぞ…俺があいつを引き剥がす!変身!!」

「うん!」「ああ!」


お父さんの指示で僕たちは動いた。


「みんな落ち着いて!あっちから逃げて!」


僕は周りにいたジョフさん含むフレンズさんやお客さんを安全な方向に連れて行った。

そして戻ってくるとちょうどお父さんがイーグルを引き付けているところだった。


「はっ、鳥頭!あいつを裁きたきゃ俺を倒してからにしやがれ!」

「……!」

「大丈夫か?

…と素直に言いたいところだが一応身柄は拘束するぞ。」


ツクヤは男の人の腕をロープで縛って救助した。

フレンズさんに悪いことしようとしたんだからね、仕方ない。


「こっちの避難は終わったよ!」

「こちらもだ、加勢に行こう…!」

「ぬあああああ!!」


僕たちがお父さんのところまで走って行こうとすると、それを追い抜くようにエカルさんが駆け抜けていった。


「「ええっ!?」」

「お前は私の獲物だァ!!」


僕らの時代のエカルさんだったら想像もつかないような目をしてイーグルに飛びかかっていった。


「なっ、このバカ!

お客の避難はどうした!」

「知らないなぁ!!」


お父さんの言葉を一言であしらうと牙の双剣を振り回してイーグルに襲いかかった。


「…。」

「頼むから変なことはしないでくれよ!?」


イーグルは一言も言わずに、攻撃を軽々とかわしていった。

お父さんの表情は変身してるからわからないけど、声がすごく焦っていた。


「絶対に狩るッ…私の力をハクトウワシに…探検隊に知らしめるんだ…!!」


その時エカルさんが言った言葉は援護に回ろうとしたお父さんの足を止めた。


「お前…」

「フレンズになったばかりの私に色々な世界を教えてくれたあの人や探検隊に報いるために…私は最強になるんだッッ!!」

「おじ…ケイスケに挑んでいたのはそういうことか…」


そう叫ぶと渾身の力で武器を振り下ろした。

エカルさんが自分に戦いをふっかけてくる理由がわかったお父さんは一瞬立ち尽くしたけども、またイーグルに向かって走った。


「そういう事は…早く言えッ!!」

「ケイスケ…!」


武器を食らった後のイーグルに思いっきりパンチを向けた。

その時…


「……!」

「な、受け止めやがっ…!?」


イーグルはお父さんのパンチを受け止めて、お返しと言わないばかりに回し蹴りを2人に2連続で喰らわせた。


「ぐあっ!?」

「あっっ!?」


2人はその場に倒れ、イーグルがその場に立っていた。


「…ぼ、僕が相手だ!」

「ヨウ!?くっ、この手を離せれば…」


すごいスピードで変わっていく状況に、僕は頭がついていけてなかった。

情報についていけてない機械みたいにその場に立ち止まっていたけど、気を持ち直してイーグルに向かった…けど…


「…もう用はない。」


その一言だけを言ってイーグルは空を飛び、屋根の上に乗って走り去ってしまった。


「逃がさない!」

「ヨウ!ま、待ってくれ!」


ツクヤは呼び止めようとしたけど、僕は行かなきゃいけないという気持ちでいっぱいだった。


「ヨ…ウ!」


お父さん…?

蹴られて倒れていたお父さんが立ち上がった。


「これを…持ってけ!!」


そして僕に何か機械を投げた。


「これは…?そうだ、スマホ…?」


それをキャッチして画面をつける。多分これはお父さんの携帯電話だ、お父さんはそれを失敗したら壊れる覚悟で投げ渡したんだ。


「行け、アイツの尻尾を掴んで来い!!」

「…うん!」


僕はお父さんの目の届くところまでは走って、そしてお父さんたちから離れた場所からはフェネックの力を使って屋根に登って追いかけた。



〜〜〜〜〜〜〜


「ふっ、ほっ!

どこだ…!?」


屋根を跳び移り、街灯を握り一回転して跳び上がり、そしてまた屋根を走って…僕はフェネックの特徴の大きな耳を活かしてイーグルが逃げた場所を探した。


「フェネックの力を自覚してからそんなに経ってないはずなのに力の使い方が手に取るようにわかる…」


そんなことをぽつりと言いながらイーグルを探す、するとその時ゴミ捨て場みたいな場所に降り立つ人影が見えた。


「いた…!」


あの姿は間違いなくイーグルだ。

お父さんが僕に預けてくれたスマホ、えーと…カメラはこう?


「すぅーっ…」


僕はそっと息をひそめて路地裏のゴミ捨て場らしき場所に近づいた。


(そーっと…そーーっとね…)


そしてイーグルにそーっとカメラを向けた。


「……。」ガチャ


イーグルが腕にはめてる機械…プロトゲノムブレスだっけ?に手をやった、変身を解くつもりだ。


(よし、その正体をカメラに撮ってやるぞ)


僕はそのままカメラを向けていると、カメラの先では驚くことが起こっていた。


「ケーくん…」

「う…嘘!?」


ケーくん、つまりはお父さんのことをぽつりと呟きながら変身を解いたのはお父さんの従兄弟の緋彩ひいろさんだった…


「ヒイロさん…!?」カタンッ


僕はびっくりしてスマホを落とした。

慌ててそれを拾っているとヒイロさんが僕の方を振り向いた。


「君は…ケーくんの…

どうしてここに…?」


ちょっと驚いた様子をしていた、普通のヒトならまず追いつけない場所まで飛んでいたからだ。


「ヒイロさん…これは一体どういうことなの…!?」

「……仕方ないね…

君、伝言を頼めるかい?」


ヒイロさんはすぐに冷静な顔になって僕に近づいた。

そして僕に…


「今夜、夜市の広場にみんなで来なさい…てね…じゃあまた後で。」


それだけ言って、またイーグルの姿になって空へ消えてしまった。

僕はもう何が何だかわからないまま地面に落ちたスマホの砂を払って拾い、来た道を戻って行った。


〜〜〜〜〜〜〜


「すまない、私が別行動をしていたばかりに…」

「気にすんなって…いててて…」

「あっ、おかえり…ヨウ?」


お父さんのところに戻ると、ナオトさんが合流していてカフェスペースの机と椅子を借りてツクヤと一緒にお父さんの手当てをしていた。


「ただいま……」

「ヨ、ヨウ…?どうしたんだ?」


たぶん僕はこの世の終わりのような顔をしてる、ツクヤがすごく心配そうな声をしてたから…


「エカルさんは?」

「探検隊に引き取られたぜ、それにしても…あんな事情があるなら先に言えっての…」


恩人に報いるために力で証明したい、それが『この時代のエカルタデタ』さんの夢だったんだね。


「あ、これ…ありがと…」

「んっ、ああ…俺ナイスだったろ?咄嗟に閃いたんだ。余裕なかったからぶっ壊れるの覚悟だったんだけどな…ん、ヨウ?」


知らない間にスマホを持つ手に力が入っていた。なかなかスマホを受け取れないことにお父さんは不思議がった。


きっと渡したくなかったんだ、『あの動画』を見せたくないって心が言っていたんだろうね。


「ヨウくん…あれ、泣いてるのか…?」

「何があったんだ、ヨウ?」


僕はいつの間にか涙を流してたみたいだ。

それに気がついて、僕は涙を拭った。


言いたくないけど…言わなきゃ…!


「撮ったんだ、イーグルの…正体を…」

「おっ、よくやったなヨウ!早速見ようぜ?」


きっとお父さんはひどく傷つく…でも、覚悟を決めた。


「…う、うん…。」


お父さんはスマホを操作して、スマホを横向きに持って動画を再生した。

2人もお父さんと僕の後ろに集まってきて動画を見始めた。



——————————

『……。』ガチャ


『ケーくん…』


『う…嘘…!?』


『ヒイロさん…』カタンッ


——————————


そこにはヒイロさんがイーグルから変身を解いた瞬間の様子が映っていて、僕が驚いてスマホを落とした声も入っていた。


そして…


——————————

『今夜、夜市の広場にみんなで来なさい…てね…じゃあまた後で。』


バサッ…

——————————


ヒイロさんが飛び去る前の様子が音だけで入っていた。


「…おと…ケイスケ…?」

「は…?え…?」


お父さんの頭からじわじわと汗が流れてきたのが見えた。

後ろで見てた2人もありえないことが起こったという顔をしている。


「嘘…だよな…?なんだよ、これ…」

「ううん…嘘じゃないよ…」


僕がそう返すとお父さんは大きな音を立てながらイスから立ち上がった。


「出鱈目言ってんじゃねぇよ!?兄ぃが…兄ぃがニューマンなわけがあるか!!!」


お父さんは今まで見たことのない顔で叫んだ。

こんなに取り乱してるお父さんなんて見たことがない。


「落ち着くんだ、ケイ…!目の前の事実を受け止めないことには…!」


取り乱したお父さんをナオトさんがなだめる、お父さんは涙を流した目を片手で覆いながら座った。


「う…ああ…すまねぇ、ちげぇんだよ…薄々思ってたんだ…

エカルだっていつも俺にいなされてるけど実力は本物だ、アイツと俺を蹴り一つずつで沈めちまうなんてよ…兄ぃしかいねぇんだよ…」


『兄ぃ』と呼ぶくらいだ、ヒイロさんのことは本当のお兄さんのように慕っているんだよ。

そのお兄さんが敵だなんて、思ったって信じたくないよね…


「ヒイロさんってすごく強かったんだね…」

「ん、ああ…昔の俺が力任せに相手を薙ぎ倒すタイプだとしたらあの人は技で巧みにいなしきるタイプだったんだ…」


そんな話をしつつ、スマホの画面を閉じた。


「…3人とも。」


お父さんは涙を拭いきり、まっすぐとした眼差しになった…そして…


「迷惑は承知だ…頼む、あの兄ぃを俺が尊敬していた元の兄ぃに戻すのを手伝ってくれ…!!」


そう言って頭を下げた、取り乱したり涙を流したりするお父さんも初めてだけど、頭を下げるお父さんも初めて見た。


「頭を上げてくれ、ケイ…たとえ言われなくたって"俺"はケイの力になる。かつての俺にそうしてくれたようにな?」

「俺も力になる、一緒に取り戻そう。」

「僕もいるよ?大丈夫、みんなと一緒ならやれるよ!」


みんなが心を一つにして、みんなが心を震わせた。

僕らは夜までにできることをしようとトレーニングをして約束の時間を迎えた。



〜〜〜〜夜〜〜〜〜


広場の周りには人が集まっていた。

まあ、これだけスタッフさんが忙しなく動いていたら気になるかもね。


「この辺りは危険です、離れて!」

「あそこにいる人たちは何を?」


スタッフさんとお客さんがあちこちで会話をしている。

スタッフさんとお父さんたちが少しずつ人払いをして、ようやく広場の周りを通行止めにできた。


「さあ、来いよ…」


お父さんはいつもの明るさはどこにも見当たらない、張り詰めた顔をしていた。


そして……





「やあ、早かったね。」



ついにヒイロさんが広場の向こうからやってきた。服装は警備の服じゃなく私服みたいだ。

腕にはあの機械、プロトゲノムブレスがはめられている。



「兄ぃ…」

「ケーくん、ごめんね…騙すつもりはなかったんだ。」


向かい合う従兄弟同士、仲良しだったはずの2人が戦わないといけないこの空気感が重すぎた。


「教えてくれよ、なんで怪物に…ニューマンなんかになっちまったんだ?」

「ニューマン…ああ、知性を持つイビルズの呼び方だっけ…

ボクがそれになった理由か、ケーくんが相手なら話しておかないとね。」


聞かれて教えてくれるものなのかと思ったけど、ヒイロさんはそのまま話を始めた。


「父の都合で都会に引っ越したのは知ってるよね。」

「ああ。」

「まあ、そこでの暮らしにもだいぶ慣れた頃だったかな…塾の帰りに女性が酔っ払った男に絡まれているところを見たんだ。

ボクの正義感はそれを許さなかったんだ、ボクはその女性を助けて、殴りかかってきた酔っ払いを止めた。」


ここまで聞いたところ、ヒイロさんがここまでなる理由がわからない…


「その女性に絡んでいた男は大企業を取り仕切る社長だったようだ、ボクが止めに入ったのが気に入らなかったようであらゆる権力を振り翳してボクを『大企業の社長に暴行を加えた悪者』として訴えたんだ。」

「んな…被害者が証言すれば解決する話だろ…!?」

「そうはいかなかった…そいつはその女性や彼女の家族に圧力をかけて裁判に出てこないようにしたどころか遠い場所へ引っ越させたんだ。」


ひどい…ヒイロさんは人助けをしたのに?


「ボクは犯罪者のレッテルを貼られて、まともな人付き合いなんて二度とできなかった。

ほら…職だって、警備員というよりはボクの腕っぷしだけを買われただけの雇われ兵士だ。」


そして、今までで1番絶望感に待ちたトーンで続けた。


「孤立して思ったんだ、『この世にヒーローなんて居ない』って。」

「兄ぃ…」

「でも、だからこそボクがなるんだよ。悪を完全に滅ぼす正義ヒーローに…!」

「違う!そんなのヒーローじゃねぇ!!!

ヒーローってのは悲しんでる人に手を差し伸べられるやつのことを言うんだよ!」


お父さんが必死に反論し、ヒイロさんはその反論を悲しそうな顔で聞いていた。


「ダメなんだよ、救うだけじゃ。」


どうして…?


「誰かを救ったところでまた新しい悪に脅かされる。

だからこそ力がいるんだ。」

「力なんて関係ない!!!」

「力無き正義は戯言に過ぎない!!!」


従兄弟同士の2人が大声で言い合っている。

僕もツクヤもナオトさんも、それをうつむいて見ていることしかできない。


「……。」

「……。」


音のない時間が流れる。

そして…口を開いたのはお父さんだった。


「…だったら見せてやるよバカ兄貴…!

ヒーローはここにいるってことをな!!」


その顔には涙はなかった。

ただ、尊敬していたお兄さんをもとに戻すという決意だけを感じる眼差しでヒイロさんを見ている。


「…始めようか、超…進化!!」


ヒイロさんはプロトゲノムブレスにカプセルをセットした。

そして…背中から生えてきた翼に包まれて『イーグル』の姿へと変わった。



「レッツ…ジャスティス…!」



〜次回に続く〜



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