胸の中にあるもの

「それで…相談ってなんだ?

どこか痛いのか、それとも怠いのか?」


相談に来たのはエカルタデタのエカル、何か悩んでいるような表情をしていた。


「えーっと…何というか…

どこか締め付けられるような感覚…というか…?

この、胸の辺ですかね…」


胸…?心臓や肺だろうか…だとしたら一大事だ。

ナミちーもエカルに質問をする。


「なるほど〜…それって何か決まったタイミングがあったりする?」


うん、いい質問だ。

どのような条件でその症状が出るのかを知ることも大切だからな。


「えーっと…ぼーっと考え事してる時ですね…。」

「失礼かもしれないが、それはどんな事を考えてる時なんだ?」

「えーーっと…ヨウさんと会った時の事や助けて下さった時の事を考えてる時…ですね。」

「あっ…」


察した。


エカルはヨウに惚れている…。

まだ心に引っかかるものの名前を知らないから病気だと思い込んでいたようだ。


「ツクヤ、これはどういう病気なのー?」

「いや…これは病気じゃない。」

「そうなんですか?」


しかしどう説明したものか…。

いや、とにかく今は考えられる言葉をフルに使って説明するしかないな…。


「それは恋というものだ、ヒトが別のヒトの事を特別な存在だと思っているという事だな。

…そうだな、簡単に言うと『この人とつがいになりたい』と言う事だ。」

「ええ〜っ!!」

「そうなんですか…?じゃあ私…」


しかしここでまた問題が…

ヨウはおそらくスナネコかツチノコのどちらかに気があるような雰囲気を感じるんだ。

告白させたとしてエカルには悲しい結末を見せることに…。


「それで…私はどうすれば…?」

「ヒトはそんな時、相手のことが好きだと言う事を相手に向かって伝えるんだ。

相手が了承すればお互いにつがいの一歩手前まで行くことができる…だけど…

ヨウは別の誰かをエカルみたいに好いていると思うんだ…。」


だから…俺からGOを出してやる方はできない…。


「…私、行きます。」

「っ!?大丈夫なのか?」

「大丈夫かは…わからないです。

だけど、気持ちを伝えられたらきっとスッキリすると思うんです…。」


あぁ、彼女はもう前までのエカルではないのだと思った。

GOを出すよりも前に、この勇気ある目を前にして止めることもまたできないだろう…。


「それじゃあ明日、またこの辺りに来てくれないか?」

「わかりました…!!」

「えっと…頑張ってね!」


ナミちーも会話の流れが掴めていないだろう、なんだか申し訳ない。

エカルは部屋から出ていって、水辺地方へと帰っていった。



〜数時間後〜


「わかりました、博士には運動をするべきだと伝えておきますね。」

「助手、バイバイ!」


もう1人、相談に来た助手を見送って、白衣を脱ぎ俺たちの生活スペースに戻ってきた。


「…ナミちー…。」

「ん?」

「どうしよう…!!」


だって目の前で告白する現場を見るんだぞ…!?

よくさっきは焦らなかったな俺…


「そんなに焦ることなのー?」

「焦ることだよ…。」


ナミちーにはどう説明したものか…


「ナミちーは…恋愛ってわからないよな…?」

「うーん、わからない!

図書館に行って小説とか借りてこようかなぁ」

「ナミちー、小説読めるのか…!?」

「うん!」


ナミちー…よく俺の勉強の本なんかを弄ったりしていたけどいつのまにか小説まで読めるようになったのか…


「まあともかくご飯にしよう、ヨウにはエカルが言いたいことがあるとだけ言っておこうか。」

「全部言っちゃダメなの〜?」

「こういうのはあんまりな…」


俺も恋愛が得意なわけじゃないしむしろほぼ経験なしと言ってもいいだろう…だから俺もこうするのが正解なのかどうかはわからない。





〜次の日〜


「そろそろエカルも来るだろう…。

ここで待っててくれ、ヨウ。」

「なんの話だろう?」


まだ何も知らないヨウはキョトンとした顔でテーブルに座っていた。

すると…


「おー!ここがキャンプ場か!」

「エカルさんの言ってた通りいい場所ですね〜」

「みんな、今日は探検じゃないぞ」

「そうよ!私たちは影ながら見守らなきゃなんだから!」

「あれー?これから何するんだっけ?」


PPPのみんなが来た…!?

どうしてここに?


「あっ、2人とも…私たちはエカルの付き添いだから気にしないでくれ。」

「そ、そうか…。」


PPPの5人もいくつかベンチに座って待機していると、エカルが意を決した表情でキャンプ場にやってきた。


「あっ!エカルさん!こっちこっち」

「どうもです、ヨウさん…」

「それで…話って?」


・・・。


「私…あの時ヨウさんに勇気づけられてからここまですごく前に進めた気がします…。

それで…私、いつのまにか貴方のことを意識していたみたいです。

ヒトの言葉で、恋って言うみたいですね…?


もし…あなたが良ければ…一緒になりたいです…!」


全てを決心したエカルは、ヨウに自らの気持ちを伝えた。

その言葉にヨウは…


「わあ…びっくりしたよ…でも…ごめん…。」


悲しそうな顔で振った。

ヨウにとってエカルは嫌いな存在でも興味ない相手ではない、それゆえに断る方も辛いのだろう。


「僕も…エカルさんみたいにいつのまにか一緒になりたいと思っている人がいるんだ…だから…エカルさんの気持ちには応えられない…。

でも、エカルさんはこの先僕よりもいい人と出会える気がするんだ。」


少し涙を流しながらも、笑顔は崩さずに続けた。


「エカルさん…これで僕のこと避けたくなっちゃうかもしれないけど…僕はこれからも友達として居たいな…?」

「もちろん…友達です…!えへへ…」


玉砕覚悟で挑んだ恋は短くも散っていったが、2人の繋がりはここで終わりではない…そう信じたいと思った。



「それでは…また!」

「…力になれずに申し訳ない。」

「気にしないでください!

…あれ?ヨウさんは?」

「部屋に居ると思う、今はそっとしておこう。」


悲しんでいる、というような声は聞こえなかったが一人で考え事をしているのかもしれない。

そして、エカルと話していると…


「エカルー!」

「イワビーさ…わっ!」


イワビーがエカルに勢いよくハグをした。

そしてPPPのメンバーが駆け寄ってきた。


「よく言った!!オレ恋ってわかんないけど…よく頑張ったと思う!」

「エカル〜、なんか顔が凛々しくなったね〜」

「見ていたよ、頑張ったね…。」

「よしよし…勇敢でしたね…!」

「頑張ったわね…でも、大丈夫なの?」


エカルは、一切の迷いもなく


「いえ…伝えたいことが伝えられて晴れ晴れしました…!」


と笑顔で答えた。

…彼女は強い…。


「それじゃあ、帰ってみんなでジャパリまんでも食べましょ!」

「いいですね!マーゲイさんも誘いましょう!」


そして…エカルとPPPは水辺地方へと帰っていった。

——————————三人称——————

〜〜〜夕方〜〜〜


一方のナミちー、図書館で博士のおすすめの小説を読んでいた。


「ふーー…あれっ、もう太陽があんなところまで!」


ナミちーは、わからない字は博士に教えてもらいながらも、夢中で読んでいたのだ。


「ナミちー、恋愛についてわかりましたかぁ?」

「あっ、スナちゃーん。

だいたいわかったかも?」


スナネコもナミちーと同じく本を読んでいたようだ。

飽きっぽい彼女には漫画をおすすめされたようだ。


「たまに感じるあったかい気持ちも…もしかしたらなぁ〜?なんちゃって…スナちゃんは?」

「そうですね〜…恋愛の始まりはパンだということはわかりました。」


食パン…それは曲がり角でのド定番。


「パンを加えてダッシュすると、ぶつかった相手を好きになるんじゃないかって…でもボク、パンを加えたこともぶつかったこともないんですが…。」

「うーん…パンは重要じゃないんじゃない?」

「ですかね?…まあいいや、帰りましょ?」


スナネコとナミちーは本を博士たちに返して家に帰っていった。








そして…その様子を遠くから眺める者も…




「おっ、あの子たチが前トは別の場所に帰って行く…引っ越しタのかなぁ?」


黒点、再来。


「じゃあ…遊びに行っテあげようか…♪」


〜次回に続く〜

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る