日没

〜ツクヤ視点〜


あれからしばらく経った。

ヨウの顔からはすっかり笑顔が消え、ロッジの雰囲気も自然と湿っぽくなっていった。


ヨウが俺たちにもたらしていた影響は、計り知れないほどに大きかったようだ。

現に俺も最近、料理の調子が悪くてしばらく作れずにいる。


その影響で、今日の食事もジャパリまんになった。


「「いただきます……」」


みんな一言も談笑せずに黙り込んで食べている。

だが、みんなヨウを恐れているわけではない、どう声をかけてやればいいかわからないんだ。


「…ヨウ、大丈夫か…?」


俺はヨウの状態が心配になり、そっと声をかけた。


「ぜんぜん…。

だって、いつか僕がみんなを傷つけるかもしれないんだよ…?」


ヨウは震え声で返した。

今にも泣き出しそうな声だった。


「そ…そんなに悲しまないでくれ、みんなで解決策を探そう…。

ほら、フレンズは助け合いなんだろ…?」


俯いているヨウに、俺は元気をつけてほしい一心で言葉をかけた…だが…






「わかったような事言わないでよ!!!」


ヨウは今までにないような声のトーンで怒り、持っていたジャパリまんの包み紙を握りつぶした。


「何もわかってないくせに!!!!」


ヨウから初めて言われたその言葉は俺の心をえぐり、俺から冷静さを奪っていった。


「っ!!!

人がどれだけ心配しているかも知らないで『わかったような事を言うな』だと!?」


俺は感情的にヨウに飛び込むと、俺たち二人の中で初めての大喧嘩になった。



「シャーーーッ!!!!」

「ガルルルル…!!!!」


俺が覚えてるうちで言っても、椅子がひっくり返り机は薙ぎ倒されてジャパリまんは宙を舞っていた。


「やめてツクヤ!!」

「落ち着いてください…ヨウ…!」


二人の言葉がうっすら聞こえたのは覚えている、だが俺もヨウも我を忘れていた。

噛み付いて引っ掻いて、取っ組み合いでやり合っていた。



こんな様子が少しのあいだ繰り広げられていた…だが…


「ガルルル…」

「ツクヤ。」

「ガッ!?…姉さん!?」


俺の服の襟を姉さんが掴み、流れるような勢いで俺の頬に一発平手打ちをした。


「っ!?何するんだ!!」

「少しは冷静になった?」

「…!!」


姉さんの厳しくも優しい視線を受け、今俺がやっている事を客観的に見ることができた。

そして、俺は『こんな事をしている場合じゃない。』と思うことができた。


「…ありがとう、姉さん。」

「ふふっ…『キツめのお仕置き』だよ。」


そして、一方のヨウにはツチノコが立ちはだかっているのが見えた。

ツチノコはヨウが驚いた一瞬の隙を見て、強烈なタイキックをお見舞いした。


「いっっだ!?何すんのさツチノコ!!!何がしたいの!?」

「それはこっちのセリフだ!!」

「…!!」

「お前は何がしたいんだ?そもそもツクヤに言うべき言葉は本当にさっきの言葉か?」


ツチノコは姉さんのように優しい視線ではなかったが、荒っぽくも心を揺さぶられるその喝は間違いなくヨウの心に響いたはずだ。


「…そう、だね…何やってんだろ僕…。」


ヨウはハッとしたような顔をすると、俺の方に歩み寄ってきた。


「ゴメンねツクヤ…僕のことずっとずっと心配してくれてたんだよね…ゴメンね…」

「こっちこそ…ヨウがどれくらい重いものを抱えてるかも考えずに言ってゴメン…」


ヨウは涙で顔を濡らしながら、俺にハグをした。

やっぱり、俺たちの関係はあの程度で壊せるほどやわではないと感じた。


「…さて…片付けなくっちゃね…?」

「…そうだな。」


仲直りをした俺とヨウは、自分たちがめちゃくちゃにしたロビーを責任持って片付けた。



あれから四日経った。

ヨウは放っておくとすぐにどこかへ行ってしまうようになった。


「居た…大丈夫か、ヨウ?」

「…僕はそろそろダメみたい、セルリアンを倒したりしてなんとか抑えれてるかなって思ってもダメだったし…。」

「ヨウ……」


ヨウは本当に弱々しい声だった。

今にも消えてしまいそうなくらいに…。


「とりあえず、ロッジに戻ろう。」

「僕が居たら迷惑だよ…。」

「そんなことはない、だからそう言わないでくれ…。」


俺はヨウの手をひいてロッジへ連れ帰った。

こうしていると手をひかれながら一緒に歩いた頃のことを思い出す…。



ロッジの入り口に着いた時、ヨウは立ち止まった。


「ごめんね、こんな体になっちゃって…ぁ…ぐ…!?」


ほろほろと涙を流したヨウ、だがそんな時にヨウに異変が起こった。


「どうした!?」

「あ…ぁ…ついに来たのか…」


ヨウの目はギラギラと光っていた。

その目は完全に野生の目だった。


「クウゥゥゥゥ……!!」

「…本当に…獣じゃないか…。」


ヨウは威嚇する猛獣のように手を地面につけて唸っていた。

体からは濁った金色のオーラが出て、野生解放状態になった。


「シャーーーッ!!!」

「ぐわっ!?」


いきなりヨウが飛びかかってきて、俺はヨウに押される形で転げた。

ヨウは腕に噛みつこうとしていた。


「ぐっ…ヨウっ…」


迂闊に反撃できなかった、この間喧嘩したとはいえ…反撃すればヨウを傷つけることになるからだ。

俺がヨウに襲われていると、スナネコたちがロッジから慌てて出てきた。


「ツクヤ!?ヨウ!?」

「クソッ…ついに来たのかよ!」

「ツクヤ!一旦ヨウから離れて!」


ナミちーが声を振り絞って指示する。

俺はそれを聞いて、ヨウの僅かな隙を狙って脱出した。


「はあっ…はあ…どうする、ヨウを大人しくできれば良いが…」

「攻撃するしかねーよ、ヨウを取り戻したかったら…」

「なにっ!?」


ツチノコの無情な一言に、俺も思わず反論が出た。


「そんなことをしたらヨウを傷つけてしまう!ダメだ!」

「甘いこと言ってるんじゃねぇ!そんなんじゃいつまでもヨウはあのままだぞ!?」


俺の反論を聞くと、ツチノコは尻尾を叩きつけながら一喝した。


「…やるしかないのか?」

「なるべく安全な方法を考えてある、ちからくらべだ。」

「なるほど!あれならバリアが破れる頃にはヨウはヘトヘトですね!」

「上手く行くといいけどねぇ…」


よし、ツチノコの作戦で行こう…

俺は腕時計型のデバイスを起動して、ラッキービースト3体とジャパリホイールバイクを呼び出した。


『ズサァァァッ!!』『トコトコトコ…』


「集まったな…?ちからくらべモード、起動!」


『〜〜〜♫』


ラッキーたちが俺たちにバリアを展開すると、いつもの曲が流れた…いや、少し違う?

オーケストラ風にアレンジされていた、これは俺たちへの応援ということか…?


「こんな時に音楽だと?ノンキなことしやがる…」

「まあいいじゃないですか、ツチノコ…音楽の力はすごいですよ?」

「そうそう、なんか燃えてきた!」


「シャーーー…!!」


ヨウは目をぎらつかせると、まずはツチノコに突進した。


「おっと!?よっ、あぶっ…ねぇな!!」


ヨウの引っ掻きにツチノコは渾身の回し蹴りで反撃する。

ヨウは後ろに吹っ飛ぶと、クルルと唸って地面を叩いた。


「んぁ?何してんだ?…ってなんだぁぁぁ!?」


ヨウが叩いた地面からツチノコのいる場所へ、徐々に地面が盛りあがっていっていた。


「クソッ…なんだこれ!?

ぐわっ!!」

「ツチノコ!」


地面の盛りあがりがツチノコのところまで来ると、大きな岩が地面から生えてツチノコをふっ飛ばした。

スナネコは慌ててツチノコを介抱した。


それとバトンタッチするように、今度はナミちーが向かっていった。

俺はその後ろに続く形でついていった。


「超音波〜攻撃!」


ナミちーは大地を揺さぶるような超音波でヨウを攻撃した。

ヨウは耳を畳んで苦しそうにしていた。


「ツクヤ、今だよ!」

「わかった…届け!」


俺はヨウが怯んでいるところに攻撃をくらわせた。

心が痛むが、今は我慢しなければならない。


「クルルル…シャーッ!!」


ヨウは怒ったように鳴き声をあげると、今や前足の如く使われている手を突き出して砂嵐を起こした。


『ビュオオオオオッ!!』

「うわっ!?」「ツクヤ!?ぎゃーっ!!」


俺とナミちーはその砂嵐に巻き込まれて後ろに吹っ飛んだ。


「くうっ…みんな、体力は残ってるか?」

「あったりまえだろ?」

「まだまだ、頑張れますよ!」

「うんっ!こんなんでへこたれてちゃダメだよね!」


俺たちでヨウを助け出す、そのためにはまだまだ頑張らなくては!


「みんな…行くぞ!!」

「「おーー!!」」


—————————ヨウ視点———————


〜謎の空間〜


「う…あれ、なんだろうここ…?」


僕は気がつくと来たこともない場所に飛ばされていた。

周りの景色は砂漠地方に似ている、けど暑くない…。


遠くには三角の…建物?が建っていた。


「えーっと、アレなんだっけ??」

だ。」


僕の言葉を訂正しながらやってきたのは、金髪に褐色肌のフレンズさんらしき人だ。


…前に夢で見たような気がする…?


「君は…?というかここはどこなの?」

「ここはお前の首飾りの中にある異次元だ。」


ええぇ!?い、異次元…?


「首飾り…ということはお守り?

前に何度か語りかけてきたのは君だったんだね?」


なんか思ってたより明るそうな人だね、もっと堅物な人かと思ってた。


「そうだ、そして私の名は…

エジプト神話において最高位の神と呼ばれているラーだ!」

「わかんない!」

「はぁーー???」


カッコつけた感じで名乗ったけど、僕にわからないと言われてずっこけた。


「ごめんね、ラーさん…」

「んぅうう…仕方ない、あと呼び捨てで構わないぞ…ラーさんってなんか変だし。」

「わかった、ラー…」


本当に悪いけど神話詳しくないからなぁ…ツクヤに聞いて、あっ…


「そうだ、ツクヤ…ツクヤはどこにいるの?」

「あぁ、それならあれを見ろ。」


ラーが指を刺した先に、ツクヤたちがなにかと戦っているのが見えた。


「あれは…僕!?」

「そうだ、お前だ。

厳密にはお前のだ。」

「ヌケガラ??」


抜け殻って…セミとかそういうアレ?

…なんか変な感じ。


「ああ。アレは魂が抜けて本能と衝動のみで動いている抜け殻人形だ。」

「待って、僕はここにいるよ?」

「今のお前は『魂』だ。私と同じだよ。

あの体から魂が抜けて、それを私がここに招いたのがお前だ。」


んー、また質問したいことができた。


「同じって?」

「…私は肉体がない。

昔、何かがあって魂だけになったんだ…。」

「何かって?」

「…覚えてない、正直のところ名前だってついさっき思い出したぐらいに記憶がないんだ。

いつか聞かれたら『名乗らない方がミステリアスでカッコいい』って誤魔化すつもりだったが。


へーー……。

意外と茶目っ気あるんだなぁ…


いや、そんなこと言ってる場合じゃない!


「そうだ、だったら僕が体に戻らなきゃ…!」

「ああ…戻る必要はある、しかし…

今の体に戻ったとしてもいつかまた抜け殻と魂に分かれてしまう。」

「ええっ、どうして?」


ラーは地面に金のロッドで絵を描きながら説明してくれた。


「お前はすでに死んだも同然、というのは聞いているな?」

「うんうん。」

「今のお前はサンドスターによって体を無理矢理蘇らせた状態なんだ。

これを霊的な言い方で説明すると『魂をサンドスターと言う名の鎖で体に縛り付けている状態』なんだ。」


なるほど…


「だが、時間が経つと『本能と衝動』がその鎖を千切って体の主導権を奪おうとしてくるんだ。

これは体が不完全な復活の仕方をしているが故、だな。」

「どうすればいいの?」

「よくぞ聞いてくれた、そこで出番となるのが私の力だ。

抜け殻が持っている『蘇生』のカードに私の神通力を注いで完全に復活させる、という算段だ。」


すごいっ…!それならすぐに解決だ!


「じゃあ、それで行こうよ!

今からそれをやるんでしょ?」

「いいや、そう簡単にはできない。」

「なんで!?」


ラーは翼型の髪をふわっとさせてカッコつけた後に理由を説明した。


「一度滅んだ肉体を蘇らせるというのは自然の摂理に反する。

故にそうおいそれとやってやる訳にはいかないんだ。」

「えーっ…じゃあどうすればいいの?」

「試練だ。お前に自然の摂理に反してでも蘇らせる価値があるのかどうかを見極めさせて貰う。」


し…試練…!?

僕が戸惑っていると、ラーは指をパチンッと鳴らした。

すると、地面が盛り上がりセルリアンのようなものが現れた。


『ズモ…ズモモッ…!!』


「みっ…ミイラ!?しかもいっぱいいるー!?」

「今からお前にはここにいるミイラを全て倒してもらう、制限時間はあの砂時計の砂が落ち切るまでだ。」


いつのまにか空中には大きな砂時計が浮かんでいた。

あれがひっくり返ったらスタート…なのかな?


「もし、時間内に全部倒せなかったら…?」

「暴走と静寂を繰り返す不死身の戦闘兵器になるだろうな。」

「嫌だぁぁぁ…!!」


よし、こうなったら…やるしかない!


『ゔー…あ"ー…』

「よーし、ミイラめ…全員まとめてやっつけてやる!!」

「それでは、よーい…初め!」


ラーの開始の合図とともに、僕はミイラの群れへと突撃していった。


〜次回に続く〜

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