灯火の恒星

ついにヨウが野生解放をした。

ヨウはフェネックとのハーフだったのだ。

ドットはヨウの野生解放を祝うように拍手していた。


「ブラボーブラボー…おめデと〜、楽しみにしてタよぉ…」

「…っ!!」シュンッ

「どワっ!?」


ヨウはすさまじいスピードでドットに接近して、回し蹴りを叩き込んだ。

この動きはドットも同じことをしていた。


「もう…あわんナって!」


ドットは咄嗟に触手を伸ばして反撃に出た、だがヨウの姿は蜃気楼のように歪んで消えた…かのように見えた。


「!?」

「こっちだよ!!」


いつのまにかヨウはドットの背後にあらわれていた。

その掴み所のなさはまさに蜃気楼ミラージュであった。


そしてヨウは、手のひらを出し構えたかと思うと呟くように言った。


「…サンドストーム砂塵の大竜巻!」


『ビュオォォォォッ!!』


「わッ!?」


すると手のひらから中型の砂嵐が起こり、ドットを後ろに吹き飛ばした。


「やルねぇ…」

「まだまだ!!」


ヨウは地面に拳を打ち付けると、砂を巻き上げた。

それはまるで煙玉を投げたかのようにドットへの目眩しになった。


「ふぎっ…キミにしてはなかナか小賢しい手を…」


煙が晴れると、ヨウは高速移動をしてドットの周りを駆け回っているのが見えた。


「何ヲする気だ…?」

「こうするんだよ、リアライズ!」


ヨウがカードをかざすとヨウの空中に無数のナイフサウザンドナイフが現れた。

ヨウは勢いよくジャンプすると、一本ずつ掴みドットへと投げた。


「うおっ!?あだダだだ…それ人にやんないでよ?」


ドットは冗談まじりに茶化していたが、ヨウは気にもしていなかった。


「まだ終わりじゃない!!」


全て投げ終わったヨウは身軽な身のこなしで撹乱しながら、速さと強さを兼ね備えた一撃を何度も食らわせていた。


フェネックとは本来、事を得意とする。

故に戦いは得意ではない種族だ。

だが今のヨウはその逃げるためのスピードを戦術として使っている。


「どりゃっ!!」ドスッ

「がふっ…コのぉ〜…」パーンッ


ドットは負けじと応戦し、そのうち殴り合いになった。

俺とスナネコはその様子をただ見ることしか出来なかった。


今思うと、俺やスナネコを苦しめたドットの体術はヨウのものをコピーしていたのだと思った。






「うぐ…!?」

「ツクヤ?大丈夫ですか?」


突然、目眩がしたかと思うと目の前が暗くなった。

そして俺はその場に倒れ込んだ


———————

「ここは…?」


気がつくと見覚えのある景色が広がっていた。


しばらく歩いていると10体ほどのセルリアンの群れが金髪と黒髪の2人の子供を囲んでいた。


「あんな小さな子供が…

やめろ!…って言っても聞こえないか…。」


どうすればと思い見ていると、金髪の方の子供がセルリアンの群れに向かっていった。


「えいっ!やーっ!がりがりがり!」


その子供はセルリアンに飛びかかり、パンチやキックや引っ掻きでセルリアンを倒していった。

だが子供もボロボロになっていた。


「だ…だいじょうぶ…?」

「し…しんぱいないよ…!」


黒髪の方の子供が駆け寄り金髪の子供を担ごうとしていた。


「う…うぅ…ごめんね、ヨウくん…

おれがもっと強かったらいっしょにたたかえたのに…」

「きにしないでツクヤ…きみがつよくなるまで…ぼくが守るから…ね?」


…思い出した


この日、俺はヨウに助けられた。

それから俺は強くなりたいと思って京介おじさんヨウの父親や母さんに稽古をつけてもらったんだ…。


ヨウは昔から父親の遺伝か、子供にしてはかなり力持ちだった。

俺はそんな彼の背中を追って修行したんだ。


__________________







「はっ…!?」


気付くとサバンナ地方に戻っていた。

隣にはスナネコ、そしてヨウとドットがまだ戦っていた。


「大丈夫ですか、ツクヤ…」

「ああ、大丈夫だ…少し思い出の世界にいたようだ。」


スナネコはなるほどという顔をしていた。

前例があるヨウとの旅のおかげか。


「ドット…これで終わらせる!!」バシュウゥゥ‼︎


気がつくとヨウはけものミラクルの構えをとっていた。

だがその動きは前回とは違っていた。


「うおおおおおっ!!」


ヨウがドットの周りを走る。

そうすると、なんとヨウの姿がいくつもできた。


まるで漫画の忍者がやる『分身』のように。


「それっ!うおりゃっ!でゃっ!!」ザシュッザクッ

「うおっ…いデででっ…」


ドットは四方八方から引っ掻きを喰らってふらふらとしていた。

そしてヨウの姿は一つにまとまり、大地を蹴ってドットへ最後の一撃を喰らわせた。


「ぎゃーーっ!!」


[陽光百火ミラージュクロー]


ドットはわざとらしい悲鳴をあげてバタリと倒れ込んだ。


これがヨウの真のけものミラクルか…


「はハはは…やるねぇ。

今日のところはボクの負ケにしておくよ。」

「僕は…命あるものをゲームの道具のように扱う君に負けるわけにはいかない…!」


ヨウのその言葉を聞いたドットは、突然無気力さを無くしたかと思うとすっと立ち上がった。


「っはハははは!よく言うよ!」

「なにを…!!」









「命のない奴が偉ソうに!!」


…!!


「え…?」


ヨウは動揺して目を丸くした。


「え?知らなカったの?

じゃあ教えてやるよ、お前の体は死んだモ同然なのさ!!」


あの時…遊園地の帰りに見た父さんの日記の通りだった。

あれは本当にそうだったのか…


「だから…エいっ!!」グサッ

「ぅぐっ!?」


ドットは証明してやると言わんばかりにヨウの体を触手で突き刺した。

そして触手を引き抜いて言った。


「こうされテお腹に穴が開こうたって死なないわけよ!」


ドットの言う通り、ヨウは刺された場所からサンドスターを出しながら何事もなく立っていた。

しかも突き刺された場所には穴はなく、服が破れていただけだった。


「なぜキミが観覧車から落ちてモ死なないのか、なぜ斬られテも血が出ないのか…

そしてなぜコールドスリープでもないノに肉体を保てるのか、その全ての答えがそれだよ。」


ヨウはパニックに陥ったように頭を抱えていた。


「嘘だ…そんなの信じられるわけがない!

ツクヤ…僕は生きてるよね…?」

「…ほ…本当だ、ヨウ……

黙っていてごめん…。」


俺はあの時全てを知ってから、そのことをヨウに伝えられなかった。

ヨウが全てを知ってしまったら普通の生活はおくれない、そう思ったからだ。


「う…うぁぁあ…」


ヨウは耳も尻尾もなくなり、力なく座り込んだ。

ドットは追い討ちをかけるようにヨウの頭を掴んだ。


「ふフふ…そんじゃ、ボクに勝ったご褒美に教エてあげる。

どうやって死んダかを、ね!!」


ドットは自分の中から金色の光を取り出して、ヨウに浴びさせた。

おそらく『パズルのピース』のように固まる前の輝きを…


「うっ…あぁ…」


そしてヨウはその場に倒れ込んだ。


————————ヨウ視点————————


知らないくらいが良かった事実を聞かされて、僕はショックを受けた。


そのショックをそのまま抱えたまま記憶の世界へ引きずり込まれた。


~~~~~~~

『ん…?』


目が覚めると、薄暗い景色が広がっていた。

あっちこっちにセルリアンがいて、さらには景色の奥で巨大なセルリアンが暴れていた。

そのセルリアンはドラゴンの姿をしていた。



しばらくドラゴン型セルリアンを見ていると、光の球のようなものが飛んできてセルリアンにぶつかっていった。


『あれは…フレンズさん…?』


その球の内側には人型の影のようなものが浮かんでいた。

多分フレンズさんなのかな…?だとするとあれはセルリアンと戦ってるのか…。


後ろを向くと、フレンズさんやパークの職員の人が避難していた。

そして…


「ふっ!この!!」


『仮面フレンズデオキシ』がセルリアンと戦っていた。

デオキシはセルリアンをなぎ倒してみんなを逃がしていた。


ふいにデオキシは振り返り、同じくセルリアンと戦っていた昔の僕に呼びかけた。


「お父さん、お母さんたちを避難所に連れて行きに行っていい!?」


『お父さん…?』


「わかっ…ぐわっ!?」


と呼ばれたデオキシはセルリアンの不意打ちを喰らって転げた。

すると変身が解けて、そこには本当にお父さんがいた。


「き…気をつけろよ、ヨウ!

こっちは気にすんな、別フォームで対処する!」

「オッケー、お母さーん!」

「わかったよ〜…行こっか…。」


お母さんと呼ばれたフレンズさんは、昔の僕についていった。

大きな耳とふさふさの尻尾を持った…そう、思い出した…フェネックだ。


そして昔の僕は、お母さんを連れて走っていった。


「ヨウ、その道を行けばアライさんとホワイトサーバルがいる。2人に合流しよう。」

「うん!」


アライさん、ホワイトサーバルちゃん…

2人とも僕が小さな頃から遊んでくれていたフレンズさん、そしてお母さんの友達フレンズだ。


『懐かしい響き…』


僕が懐かしさを噛みしめながら2人を追いかけていると、ドラゴン型セルリアンがビームを放った。


すると、地面がガラガラと音を立てて崩れた。

ここは崖になっていたんだ。


「わぁあっ!?」

「お母さん!」


お母さんが崩れた地面に巻き込まれて落ちそうになった。

昔の僕はとっさに手を取った。


「ヨウ…ダメだよ、あなたまで落ちちゃうよ!手を離して!」

「いや…だ…!!絶対に…助けるんだ…!」


昔の僕は必死にお母さんの手を引っ張っていたけど、セルリアンと戦ったダメージのせいか思うように引き上げられなかった。



そして…


《ガラガラガラッ!!》


「ああぁぁぁぁ!!」

「わあぁぁぁぁっ!!」


地面が一気に崩れて、昔の僕もお母さんも一緒に落ちていった。



ああ…思い出した…

思い出したくなかった…


最後に見た景色は落ちていくお母さんの姿、それとドラゴン型セルリアンと光の球の中のフレンズが同時に消えていく様子だった。


~~~~~~~~~~~~~~


「あ…あぁ…」

「くクくく…思い出した?」


気がつくとそこはサバンナ地方。

ドットが薄ら笑いを浮かべながら見下ろしていた。


僕は…たしか怒りに任せてアイツを追い詰めて…?


「それニしてもさっきの戦いは激しかったねぇ…でも、良かっタの?」

「…?」


ドットの言っている言葉の意味がわからなかった、だがすぐにその意味を知ることになった。


「感情のままにボクという敵を叩キ潰して…ドール先生の教えに反してない?」

「———!!!」


ドットにそう言われて言葉にならないものが出た。

確かにそうだ、『守るため』にあるべき力を『ドットという敵』を潰すためにふるってしまった。


「あ…あぁ…あぁぁ…」


僕はその事がたまらなく悔しくなった。

ドットは、そんな僕を笑うように見つめて言った。


「まあ、ボクの本気の40%を出させてくレてサンキューって感じ。

お礼にしばらくハおとなしくしてやるよ。」パチンッ


そしてドットが指を鳴らすと、空からヘリコプター型のセルリアンが降りてきた。


「いいでしょこれ、いわユる自家用ヘリってやつ。

そんじゃ、アディオ〜ス。」


ドットはヘリ型セルリアンに乗り込んで飛び去ってしまった。

放心状態の僕にそれを追う力はなかった。


「なっ!?待て!!」

「逃げるなんてズルいです!」


ツクヤとスナネコは必死に追いかけようとしていた。

だけど飛んでる敵に追いつくわけもなかった…






「クソッ…!!」

「逃げちゃいましたね…」


ツクヤとスナネコが戻ってきた。


「ヨウ…その、申し訳ない。」


ツクヤが謝った、ずっと黙ってたことだろう。


「もういいよ…。」


僕は少し冷ために返してしまった。

この『もういい』が『気にしなくていい』なのか『放っておいてくれ』ということなのか、僕にもわからなかった。


「帰ろ、ツクヤ…

話はそこで聞くから…。」

「わかった…」「はい…」


「ラッキー、ロッジまでお願い…。」

「わかったヨ。」


僕たちは車に乗り込んで、サバンナ地方のゲートに向かった。

ゲートにはコブラさんたちが立っていた。


「おぉ、戻ったか。」

「セルリアン、倒しておいたぞ!」

「ちょっと苦戦しちゃったけどね〜。」

「一撃で倒せなかった…。」


4人とも元気そうでよかった…。


「では、私たちはジャングルに帰る。」

「うん、ありがとう…」


そして4人はジャングルに帰っていった。

僕たちもジャングルに入り、しばらく行くとツチノコとナミちーがいた。


「おっ、ヨウたち!無事でよかったよ!」

「あいつは倒せたのか?」

「……。」


僕は首を横に振った。

ツクヤが


「逃げられたんだ。

当分は大人しくしてると言っていたが…信用はできないな。」


と説明した。


「そっか…。」「そうか…。」


2人はそう返すと、車に乗り込んだ。

乗り込んだ2人にスナネコが話しかけた。


「えーっと…ヨウ、フェネックとのハーフだったんです。」

「フェネック〜!?」

「たまに冴えるのはフェネックの遺伝…か?」


3人は後ろの席でそんな話をしていた。

僕もツクヤに話しかけた。


「ツクヤ…僕の体に何が起きたのかどこで知ったの?」

「…遊園地の帰りに…父さんの日記を見つけたんだ。」


ツクヤは鞄から日記帳を取り出して見せた。


「それ、見せてくれない?」

「…わかった、だが…

お前の知りたくないだろう事が書いてあるかもしれない、それだけは覚悟して読んでくれ。」

「うん…。」


ツクヤの忠告を聞いた後、僕はゆっくりとページを開いた。


〜次回へ続く〜









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